「佐伯警部の推理」佐々木譲著
「佐伯警部の推理」佐々木譲著
重大事案の検挙実績で道警一だった札幌大通警察署刑事3課の佐伯宏一は警部に昇進、函館方面本部捜査課に着任した。赴任早々、殺人事件が起こる。函館港の岸壁で、重りを付けられ海に投げ込まれた死体が揚がったのだ。被害者は湯浅商店の社長、湯浅俊治72歳。目撃者からの通報時間と、死体遺棄まで少し間が空いていた。
佐伯は新しい土地に戸惑いながらも、街に詳しい警官を案内役にして捜査車両で街を巡回。街の距離の感覚を体で覚える一方、湯浅社長の当日の足取りと人間関係を探っていく。函館マリーナ計画に反対し、業界で反発を買っていたこと。すい臓がんで札幌の病院に入院が決まっていたこと。そして実は夫婦仲は冷えていたこと--。
大ベストセラー「道警」シリーズの第1シーズン完結から1年半。本書はファン待望の第2シーズンの幕開けだ。
突発的な強盗事件かと思われたが、やがて湯浅の妻と2人の娘夫婦の供述にちぐはぐな点が表れ始める。だが、余命わずかな老人をわざわざ殺すほどの憎悪などあるのか。佐伯の丁寧な聞き込みから関係者らの心裏を推理、徐々に犯人に迫っていく展開がスリリング。余韻の残る結末も印象的だ。
(角川春樹事務所 1980円)