(3)樽酒を飲みに行く
                         こうして調子が出たら、立川駅から中央線東京行きに乗って3つめ、国分寺へ行こう。南口に、「㐂八」という店がある。2020年に開店50年を祝った店は、今も、元気だ。湯豆腐で軽く満たした腹に、今度は、しみ込んでいくような樽酒を味わいたい。
 カウンターに剣菱の2斗樽がある。女将さんと、その娘さんと、軽く世間話をしながら、カウンターで相席になる他のお客さんの話にもそれとなく耳を傾ける。昔の映画、旬の食材、山歩き、文学、酒、あちこちに飛ぶ話が楽しい。その間に、枡に注がれた剣菱を、2杯。多い時には3杯。小皿に添えてくれる南米ウユニ湖産の塩など舐めながら飲む。塩で飲むとは星一徹のような……、と思うご仁は同世代か。ま、酔いどれの丹下団平には剣菱は高嶺の花だったかなと、これがわかるのも同世代か。
 創業以来、継ぎ足しのタレで煮ている身欠き鰊の佃煮をもらう。この濃厚な味が、樽香も爽やかな剣菱によく合う。うまいねえ……。店ができたのが55年前とすると、私は6歳。三鷹の鼻垂れ小僧だったことを思うと、笑いがこぼれる。往時の風格をとどめる店内は、渋く年を重ねているが、いつも清潔で居心地がいい。私は、この店のカウンターに1席もらって剣菱を飲む時間が、たいへん好きである。
                    

 
                             
                                     
                                        


















 
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
         
         
         
         
         
         
         
         
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                