新橋「酒蔵ダイヤ菊」で辛口ダイヤ菊を冷やでやりながら蓼科の小津安二郎に思いを馳せる
カウンター横の棚には「蓼科日記」がさりげなく置かれている
小津と脚本家の野田高梧は蓼科の野田の山荘、雲呼荘でシナリオ執筆のとき、必ずこの酒を飲み、一升の空瓶が100本ほど廊下に並んだ頃、シナリオが完成したという逸話がある。それは小津を知る映画ファンなら知らぬ者はいない。そうか!その時の酒がダイヤ菊だったのだ。アタシはスッキリした気持ちでカウンターに陣取り、ふと見上げるとそこには「東京暮色」の有馬稲子と原節子の写真がさりげなく飾られている。注文を取りに来てくれたのは2代目店主の水口久恵さんだ。まずは黒生(680円)と里芋煮とソーセージ(各330円)を。
カウンター横の棚には小津、野田の蓼科での創作の秘密が網羅された「蓼科日記」がさりげなく置かれている。「小津先生の映画に出られていた三上真一郎さんも飲みにいらしてましたよ」と水口さん。アタシは黒生を手早く飲み干し、小津が飲んでいたダイヤ菊の二級酒に最も似ているという現在の辛口ダイヤ菊を一合徳利(680円)の冷やでいただいた。
古風な徳利からお猪口に注ぎキューッと飲み干す。うまい! 近頃の淡麗で水みたいな酒とは全く違うズシッとした昔の二級酒だ。サイコ~! アタシの親父が好きだったのも辛口の二級酒。イカン、この酒はキリがないぞ。酒豪だった小津と野田も2人で軽く一升を飲み干し、「そろそろ始めるか」ってな調子で仕事にとりかかったのだろう。
そんな思いに耽っていると、続々と客がなだれ込んできた。ニュー新橋ビルとともに年齢を重ねてきた先輩たちだ。「しばらくママの顔見ないと寂しくてね」。ド昭和な軽口をすてきな笑顔で受け流した水口さんがアタシの横で呟いた。「小津先生が亡くなられた年に私が生まれたんです。これも何かのご縁ですね」。さて、真剣に飲むとしよう。アタシも常連気取りで「ママ、ダイヤ菊をもう一本。それとウドの天ぷらね」。気分は小津映画常連の北竜二といったところか。 (藤井優)
○酒蔵ダイヤ菊 港区新橋2-16-1 ニュー新橋ビルB1


















