デンマークなぜキャッシュレス大国に 在日大使館に聞いた
キャッシュレス化が遅々として進まない日本を後目に1980年代からデジタル化に取り組み、人口580万人のうち400万人がスマホ決済ユーザーという世界一のキャッシュレス大国が北欧のデンマーク王国だ。同国のキャッシュレス事情とその背景を、在日本デンマーク王国大使館上席政治経済担当官の寺田和弘さんに聞いた。
■国内で造幣はしていない
デンマークのキャッシュレス普及率は80%だと聞く。
「1980年頃からダンコートというクレジットカードに搭載されたデビッドカードが始まりました。私もデンマークに駐在していた2000年頃に使っていました。いまはスマホ決済のモバイルペイが普及し、ワリカンをするなど日常的に使われています。デンマーク国内にいると現金は持ち歩かないのが当たり前です。以前、デンマーク人があるヨーロッパの国に旅行したことがあるんですが、レストランで食事してお金を払おうとしたら現金払いだけだと言われて、慌ててATMにお金を下ろしにいったという話もあるくらいです」
デンマークは欧州の中においてもキャッシュレス化が進んでいるということだ。日本では昨年から国のごり押しで始まり、「〇〇ペイ」を扱う企業が乱立。お得さを競うポイント制度もあることから複雑になっている。日本は「ポイ活」なんて言葉もあるくらいポイント集めが当たり前なのだが……。
「デンマークは少額ならモバイルペイ、高額ならクレジットカードが主流で、日本のようにキャッシュレス扱い企業が乱立していません。日本ではキャッシュレスにポイント還元で誘導していますが、デンマークではあらゆるポイントカードが存在しません。デンマーク人に理由をたずねると、お店のキャラで勝負しているから、必要ないよと言っていました」
デンマークでは子どもやホームレスを含め、キャッシュレス難民はいないとか。
「お小遣いもデビッドカードやスマホアプリで渡しているようです。ホームレスについては、チャリティー団体のHUS(フス)というフリーペーパーもモバイルペイで寄付を受け付けるようになりました。ホームレスにもキャッシュレスで渡すのでしょう」
キャッシュレス大国のデンマークでは国として貨幣や通貨をもう鋳造しないという未確認情報もあるが。
「現金の必要性は下がっていますが、中央銀行は現金を無くすと言ったことはありません。ただ紙幣はフランス、硬貨はフィンランドで製造しており、国内ではもう作っていません」
貨幣の発行は国の主権みたいなもので、日本政府が海外に造幣を委ねることは考えづらい。
「現金を使う行為は手間もコストもかかります。コストはキャッシュレスの倍ともいわれます。脱税や資金洗浄に加えて衛生面でのリスクも考慮するとキャッシュレスのほうが合理的だという認識はデンマークにはあります」
■12カ月単位ではない学校
この合理化を担保するためにデンマークでは日本のマイナンバー(国民共通番号制)に相当するCPR(社会保障)番号を導入してデジタル化が進んでいる。一方、日本ではマイナンバーカードについて普及率は低くく、利権だ、管理だ、情報漏洩だという批判すらある。
「デンマークでは1986年からデンマークに住むすべての人にCPR番号が付与されています」
このCPR番号には、住所、カルテ、薬歴、納税、年金、銀行やバイオバンクなどのビッグデータがリンクされている。
「医療や教育など社会福祉の利便性を享受するには必要だということで、国民にも受け入れられています。子ども手当や介護の申請、入学手続き、処方箋などは全て紙ではなくオンラインです。必要な人に必要な福祉を提供するためには、所得の補足と公平な課税が必要です」
税といえば、デンマークでは消費税は25%、所得税や住民税などはあわせると平均で40%を超える。
「日本とくらべれば税率は高いですが、子ども手当がありますし、大学院まで学費は無料で、学生手当も月10万円ほど支給されます。中学校から一般の学校への進学率は3分の2程度で、残りは職業訓練学校に行きます。子どもたちは日本とは違って漠然と進学するのではなく自分で学びたいことを学ぶために学校を選びます。道の選択を間違えたと思ったら、大人になってから学校を行きなおすことも自由な複線型の学校制度です。学費も無料ですから。また、新卒一括採用もないので、職業訓練コースは日本の学校のように12か月単位になっているわけでもなくて、7か月とか学習内容に応じて期間が違います」