浜矩子
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浜矩子同志社大学教授

1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。

「悪い円安」という言葉では正確な現状認識はできない まともな経済力学の逆襲が始まった

公開日: 更新日:

「悪い円安」という言い方に違和感を覚えます。そこには、基本的には円安は良いものだという発想が底辺にある。しかし、わざわざ「悪い」と接頭語を付けるのは、時代錯誤であり、精緻さに欠ける認識。日本は債権大国になって久しい。通貨の価値は上がるのが自然体であって、とうの昔に購買力の上昇と一致した経済運営になっていてしかるべきでした。当然の方向転換をせず、円高阻止を続けてきた結果、とうとう通用しなくなった、というのが現状です。

 日銀の黒田節もようやく「急激な円安はマイナス」と言い始めました。これまで「円」というボタンを押すと、機械的に「安は日本経済にとってプラス」と出てくるような回路でしたから、今さら何を言っているのか。その「悪い円安」を日本の金融政策の突出した異様さがつくり出してきた。世界的に利上げモードになっている中で、日本では断じて金利上昇許すまじと大量に国債を購入するピント外れな政策を続けている。

 そうなってしまうのは、異次元緩和が当初から「財政ファイナンス」以外の何ものでもなかったからです。まともな金融政策としての判断とは無関係なところで、狂った政策を展開し「悪い円安」なることを招いた落とし前をどうつけるつもりなのか。

 さらには「国際収支の発展段階説」という問題が横たわる。これについては、私は以前から警鐘を鳴らしてきました。いまの調子で貿易赤字が定着すれば、いずれ経常収支レベルでも赤字になるでしょう。国内で貯蓄不足・需要超過になっているので、それを補うために海外からの資本流入を獲得しなければ経済が回らない。こうした状況を「債権取り崩し国」と言いますが、果たして、いまのような体たらくの日本に経常赤字に見合う資本が流入するのでしょうか。

異様な金融政策が日本経済を心肺停止に陥らせている

 何をやってもうまくいかず、韓国がうらやましい、みたいな状態で、海外との金利差が広がるばかりでは、お金を引き寄せることはできません。そうなると日本は金欠病で窒息死。以前もお話ししたミイラ化が、ついに眼前に迫ってきた。日本の異様な金融政策が日本経済を心肺停止状態に陥らせているという現実を、真正面から受け止めないといけない。「悪い円安」などという言い方をしているようでは正確な現状認識ができていないと言わざるを得ません。

 ここを切り抜けるには、もはや金利を上げざるを得ない。物価も上昇したわけですし、緩和をやめ、財政ファイナンスに終止符を打ち、本気で財政再建に舵を切る。そうして、まともな方向に歯車が回り始めることになればいい。逆に、それでも財政負担を増やすことをしないのなら、日本経済を死に至らしめることになる。メディアは、アホダノミクス男がどう答えるのか、問いただすべきです。

 異様な金融政策に対し、いつ、どのような形で修正が迫られるのだろうかとずっと考えていました。ついに来た。いま、これがそうです。まともな経済力学の逆襲が始まったのです。

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