<第12回>「長男は本当にかわいそうでした。だから、翔平にはしてやろうと」

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大谷翔平(C)日刊ゲンダイ

 岩手県の水沢や近隣の金ケ崎には、ひなびた温泉場が点在する。

 大谷の父・徹(52)は温泉につかるのが好きだった。束の間の休日の日帰り入浴。昼夜2交代制で疲れた体をいたわるのは何よりの癒やしになった。

 しかし、頻繁には行けなかった。大谷の母・加代子(51)が笑いながら言う。

「温泉もみんなで1回行くと二、三千円かかるんですよ。大人ひとり五、六百円くらい。子供は半額で三百円くらい。水沢でも金ケ崎でもどこでもです。なのでバカにならないんですよ」

 だから休日は一家そろって付近の公園にピクニック、冬はそり遊びに出掛けた。加代子はそのたびに弁当を作った。

 大谷の兄・龍太(27)は少年時代、野球に打ち込みたくてもできなかった。

 徹が26歳の年に生まれた長男。比較的、若いときの子供だったし、岩手に転勤してからは新しい工場の立ち上げで大わらわだった。徹には肉体的にも経済的にも、龍太に本格的な野球をやらせる余裕がなかった。

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