五輪アスリートを待つ「第二の人生」…引退後の年収300万円台、正規雇用者5割の現実

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 朝日新聞の東京オリンピック・パラリンピックの世論調査(6月26、27日)で、「今夏開催」を支持する人は38%、「再び延期」の27%と「中止」が33%あった。延期を選んだ人の中には「選手たちがかわいそうだから」といった同情票も含まれている。そんなアスリートたちも新型コロナ不況で、引退後に就職難が待ち構えている。

  ◇  ◇  ◇

 アスリートにとってオリンピックは自分の名を上げるまたとないチャンス。特にマイナー競技者にとっては今後の生活がかかっている。

 だからといって一般の人が危険にさらされていいという理屈にはならないが、選手たちの今後の長い人生を考える上で五輪が無事に開催されるか否かは死活問題となる。

 ただでさえ、昨今のアスリートの就職は厳しい。「オリンピアンのキャリアに関する実態調査」(笹川スポーツ財団=2014年)にも悲惨な現状が出ている。オリンピックに出場した選手の1年間にかかった経費は、夏季大会の男性が206.2万円(冬季は245.4万円)、女性は250.7万円(冬季460.9万円)。この投資に対し、引退後の年収は「300万~450万円未満」が最多。正規雇用者は55.7%しかおらず、派遣社員やアルバイトで第二の人生を送っている元選手が2割以上もいる。引退年齢の平均は男性が31.1歳、女性が26.9歳。これからのセカンドキャリアの方が長い。

■競技団体に残れるのは3割のみ

「彼らの多くは、引退後は職員や強化スタッフなど、何らかの形で競技団体に残りたいと願っていますが、実際に団体に残れたのは3割ほど。テレビ放映権料などを大学の奨学金やセカンドキャリアに充てるアメリカのNCAA(全米大学体育協会)のような組織も日本にはありません」(アマチュアスポーツ担当記者)

 それでもメダルを取れば希望は少し膨らむかもしれない。2012年ロンドンオリンピックのメダル獲得選手たちのその後を、本紙が追跡調査してみた。ロンドン五輪には293選手が出場し、獲得メダル数は38個。銀メダルの女子サッカー18人、銅メダルの女子バレーなど延べ76人のメダリストが誕生している。

大松運輸は「若い2人をパリ五輪まで応援する」

 この中で今も現役を続けている28人以外で、最も多いセカンドキャリアが「指導者・コーチ」の19人。男子レスリング銅メダルの湯元進一や体操男子団体銀メダルの田中和仁などが入る。次に多いのが「解説者・タレント」の18人。スポーツキャスターとして活躍する競泳女子100メートル背泳ぎ銅メダルの寺川綾、タレントとして絶好調の女子サッカーの丸山桂里奈などだ。まったく競技から遠ざかっている人は9人(主婦業の沢穂希は解説者としてカウント)で、その他にプロ転向した村田諒太(ボクシング金メダル)やスポーツ庁長官の室伏広治(男子ハンマー投げ銅メダル)がいる。

 同じオリンピアンでもメダルを取ったかどうかで、その後の長い人生をテレビの人気者になるか、それとも年収300万円台で暮らすのかの違いが出てくるようだ。選手として世間の脚光を浴びるのはほんの一瞬。その後の長い人生こそ本物だ。

 そんな選手たちの苦境を救おうと、JOC(日本オリンピック委員会)も就職支援制度「アスナビ」「アスナビNEXT」に取り組んでいる。アスナビは現役を続けたい選手と企業をマッチングするもので、これに対しアスナビNEXTは引退後の選手を雇用してくれる企業を探すもの。

 今年6月現在で207社に330人のアスリートを紹介しており、キッコーマンではロンドン五輪の競泳銅メダルの上田春佳、北京五輪のカヌー4位の竹下百合子らが引退、そして結婚後も社員として働いている。だが、コロナ不況で他の企業の採用数は激減している。今年4月以降に入社が決まったのは12人のみ〈表〉で、昨年まで積極的に採用してくれていた「全日本空輸(ANA)」「セコム」「トヨタ自動車」といった名だたる大企業はゼロになってしまった。

 そんな中、「がんばっている選手を何とか助けたい」と救いの手を差し伸べる企業も出ている。建築資材の配送を請け負う「大松運輸」(横浜市)は、陸上の喜田奈南子と高松祐孝を新卒採用した。

「2人とも次のパリ五輪を目指しているので、今後も企業として応援していきます。選手としての大会出場も仕事の一部であり、もちろん有給休暇の扱いです。本人たちが希望すれば、その後もぜひ社員として残って欲しいと思っています」(大松運輸)

 普段は、事務作業や配送の手伝いをしながら練習に励んでいるという。

大友愛は「スポリー」でトレーニングコーチ

 一方、元アスリートとしての経験や強みを生かし、トレーニングコーチとして働いてもらおうというのが、「スポリー」(東京都港区)だ。

 スマホアプリ「SPORY」を使ったオンラインでフィットネス指導し、月額980円(8月までは無料)の利用料の一部が選手たちに還元される。

「現在、契約させていただいているアスリートはバレーボール銅メダリストの大友愛さん、競泳の200メートル平泳ぎで銅メダルを取った立石諒さん、水球でリオ五輪に出場した保田賢也さんらです。一流アスリートが日々積み重ねてきた努力や経験は、肉体面だけでなく、精神面のアドバイスもできるかと思います。まもなく、グループやパーソナルレッスンも始まる予定です」(スポリー広報担当者)

 オンラインのレッスンなら地方に在住していたり、子育て中の元アスリートでも働けるだろう。

 とはいえ、腑に落ちないのは3兆円もの予算をかけた大興行を打ちながら、選手をタダ働きさせているIOC(国際オリンピック委員会)やJOCの姿勢だ。稼いだ金の一部でも賞金など分け前として払っても、バチは当たらないと思うのだが。(敬称略)  

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