ロッテ井口vsオリ中嶋 パ・リーグ激烈V争いを繰り広げる2人の指揮官を徹底解剖

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ロッテ 井口資仁監督

 激烈な優勝争いを繰り広げる首位オリックスとマジック「8」が点灯している2位ロッテ。ロッテが制すれば、シーズン1位での優勝は実に51年ぶり。オリックスも25年ぶりVに向けて負けるわけにはいかない。両軍の指揮を執る監督の素顔に迫った。

 ◇  ◇  ◇

 青学大時代は強打の遊撃手として活躍し、通算24本塁打は現在も東都大学の史上最多記録だ。当時からタレント並みの人気を誇り、ダイエー(現ソフトバンク)1年目にファームで公式戦デビューを飾った試合は、二軍戦だというのに観客が殺到。当時二軍スタジアムだった雁の巣球場は普段使わない外野席まで開放し、ビジター側のレフトスタンドまで埋まった。

 ダイエーの元球団職員は「性格的にはスターっぽさはなかった」とこう続ける。

「入団1年目の春季キャンプでは、打撃練習でヒット性の当たりが少なかった。心配して声をかけたら、『僕はバッティングはどうでもいいんですよ。ただ、守備だけは絶対の自信を持っていますんで』と答えたのは驚きましたね。実際、守備面では名手も名手。井口が逆指名でダイエーを選んだ直後、遊撃から二塁にコンバートを直訴する選手もいたようです。性格は気遣いの男、ですね。ある年の正月番組に出演した際は、『普段お世話になっていますから、裏方さんで使ってください』とギャラの半分の100万円くらいをポンとくれたこともあった」

■必要とあらば因縁の相手とも手を結ぶ柔軟性

 当時のダイエーはベテランの秋山幸二が重鎮として別格扱い。青学大の先輩の小久保裕紀(現ソフトバンクヘッドコーチ)、同期に松中信彦、柴原洋といった名だたる選手がいた。前出の元職員は「そうした中でのパワーバランスもあったのだろう。井口が仲良くしていた主力は柴原や鳥越、城島くらい。後は控え選手や裏方と行動を共にすることが多かった」と振り返る。

 井口監督と付き合いが長い知人は、性格をこう分析する。

「昔から、こうと決めたことは変えないタイプ。昔からトレーニング方法も髪形も変わらない。車も以前からベンツ好きで、メルセデス・ベンツジャパンとスポンサー契約を結んでいるほどです。自分の中でのルーティンも決まっており、コロナ前は毎年オフに米国に行き、ホノルルマラソン出場も恒例だった。かといって頑固というわけではなく、目標をかなえるためにはいくらでも柔軟に行動できる。人間関係の見極めや線引きがうまく、普段はあまり深く他人に踏み込まない。それでもいざとなれば根回しもうまく、政治的な立ち回りもできる。年上に可愛がられるジジ殺しタイプでもある」

■根回し上手な「プチ天皇」

 そんな井口監督はロッテでは「プチ天皇」扱い。盤石の地位を築いており、巨人の原監督同様、事実上の「全権監督」のようなものだという。

 今季はシーズン途中の4月にエチェバリア、6月にはDeNAから国吉、中日から加藤をトレードで獲得し、ロメロの入団も発表。補強期間最終日には元広島で独立リーグに所属していた小窪と立て続けに補強を慣行した。

 小窪と加藤のみならず、川越投手コーチ、清水バッテリーコーチは青学大の後輩。森脇野手総合兼内野守備走塁コーチ、鳥越二軍監督はいずれも同じ元ダイエー。大学時代からの盟友で、二軍監督から昇格させた今岡ヘッドコーチや、昨年獲得した鳥谷は同じマネジメント会社所属と、学閥、情実何でもあり。それでも批判の声が出ないのは井口監督の力でもあり、実際にチームが機能しているからだろう。

 春季キャンプでは現役時代に犬猿の仲といわれていた松中氏を臨時コーチに呼ぶなど、良かれと思えば因縁も横に置く。井口監督のタクトで51年ぶりの「リーグV」に突き進む。

オリックス 中嶋聡監督

 中嶋監督が生まれ育ったのは秋田県北秋田市。市の面積の大半が山林で覆われ、マタギで有名な阿仁地区と隣接している。

 そんな山深い地で育ち、秋田県立鷹巣農林高校(現在は県立秋田北鷹高校)から1986年ドラフト3位で阪急(現オリックス)に入団。強肩捕手として活躍したが、高校時代からその名が全国にとどろいていた……というわけではなかった。

 当時を知るパの元スカウトが言う。

「阪急を退団した選手が故郷の秋田に帰り、鷹巣町(現在の北秋田市)の役所に就職した。その彼がある日、古巣阪急や親交のある球界関係者に『ウチの地元にものすごく肩の強い捕手がいる』と連絡。それが中嶋監督です。もし、彼がいなければプロ側は誰も中嶋監督の存在を知らず、ドラフトにかかることもなかったはず。ネットなんてない時代ですからね」

■歯に衣着せない一本気の山育ち

 このスカウトもドラフトで指名を狙っていた。

「一度視察に行きましたが、アミダにかぶった帽子のツバが上を向いて……当時の典型的な『田舎の球児』スタイルだった。それでも肩の強さは抜群。打撃はお粗末だったので隠し玉で4位あたりの指名を考えていました。高校3年の甲子園県大会でもさっぱり打てず。これなら阪急も下位指名だろうと思っていたんですけど、まさか3位とは……」

 阪急で長く活躍し、西武、横浜(現DeNA)、日本ハムと渡り歩き、2015年に29年間の現役生活に終止符を打った。ちなみに、実働29年は工藤公康、山本昌と並ぶプロ野球最年長記録である。

 インタビューなどを聞くと、ぶっきらぼうな印象を受ける中嶋監督。兼任コーチなどを務めた日ハムの関係者は「誤解されやすいタイプなんですよ」とこう続ける。

「一本気で歯に衣着せずにズバズバと本音で語るタイプ。マスコミや一見さんにはめったに心を開かず、兼任コーチ時代は記者から若手捕手の評価を聞かれ、『オレも現役だからそんなこと知らねーよ』と一蹴していた。選手にも『ふてくされやがって、文句あんのか?もういいよ、明日から二軍に行け』なんてボロクソに面罵することもあったけど、不思議と反発はなかった。むしろ『僕らのためを思って言ってくれている』と受け止められていた」

■宮内オーナーも目を白黒

 引退後は米国で2年間のコーチ留学を経て、18年に作戦兼バッテリーコーチで現場復帰。その年のオフに退団し、19年にオリックスの二軍監督に就任。昨年8月、西村監督の辞任で監督代行を務め、今季は正式に一軍監督として采配を振っている。

 オリックスでの評判はどうか。

「選手のことをよく見ており、育成方針通りに一生懸命やっている選手には何度でもチャンスを与える。打撃面では、『ボールをひきつけて逆方向におっつけるイメージで打て』と指導している。ボールは前でさばけ、という指導が近年では一般的だが、ひきつけることで球を見極めやすくなり、三振が減り出塁率も上がる効果を見込んでのことです」(球団関係者)

 こうと決めたことは譲らない頑固さもある。二軍監督時代の春季キャンプでは「ここ数日は練習で追い込んでいるから、今日は半ドンで」と方針を打ち出した当日、宮内オーナーが二軍を視察。それでも中嶋監督は気にせずに選手を引き揚げさせたものだから、宮内オーナーも目を白黒させていたという。

 酒も強く、現役時代は酒豪で鳴らした佐藤義則らと飲み歩いていた。「中嶋監督が酔っている姿は見たことがない」とは前出の球団関係者。激戦を制し、勝利の美酒を味わえるか。

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