変貌する高校野球の新実態 「センバツV大阪桐蔭の選手集めに関東の強豪校は『勘弁して』」

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 スポーツライターの大利実氏(44)がこのほど「育成年代の『技術と心』を育む 中学野球部の教科書」(カンゼン)を上梓した。

 部活動のガイドラインの導入により、以前と比べて活動時間が短くなっている中学の野球部。長時間練習や厳しいだけのトップダウンの指導法では、中学生の技術と心を育てられなくなっていると大利氏は言う。令和の時代に求められる指導法とは──。指導者をサポートする一冊となっている。

 3月31日、センバツ高校野球は大阪桐蔭の優勝で幕を閉じた。高校野球の著書が多数ある大利氏が強豪校で目立つ野球留学や、4強入りを果たした就任1年目の浦和学院(埼玉)森大監督(31)の画期的な改革などを語った。

  ◇  ◇  ◇

 ──中学野球の本を出版した。

「ライターを始めたとき、最初の取材が中学野球でした。誰も取材していない面白さがあります。私が発信することによって、指導者へのエールだったり、子供たちが喜んでくれたり、少しでも励みになればと思っています」

 ──中学野球部の人口は2002年の31万4000人から、21年には14万4000人と半分以下に減少。野球界の危機ですか?

「中学の軟式野球部の人口は減っていますが、中学の硬式野球の人口は少し増えています。中学の部活の場合、『働き方改革』として教員が部活を見づらい環境になりつつあります。部活動のガイドラインというものがあり、練習時間は週休2日で平日は2時間程度、土日は3時間程度など制限されています。今までやり過ぎだった一面もあるので、悪いことではないと思います」

■中3で取るより小6でいい選手を取るほうが簡単

 ──今センバツで8強入りした星稜(石川)は中学も強い。付属中で軟式野球をやるメリットは?

「6年間の成長を見てあげられること。中学入学当初は体が小さくても、高3まで考えて無理をさせないとか、そういう育て方ができます。現実的なことを言えば、中3でいい選手を取るのは争奪戦になって難しいが、小6でいい選手を取ることはそんなに難しくない。ただ、小学生は体が大きいと上手に見えます。早熟の子の見極めは難しい。野球人口が減っていても、佐々木朗希(ロッテ)や森木大智(阪神)ら、中学軟式のトップ層のレベルは上がっています。明徳義塾中に北海道の子が入学していますが、争奪戦は小学生から始まっています」

 ──争奪戦といえば、センバツを圧倒的な強さで制した大阪桐蔭はベンチ入り18人中14人が府外出身者。全国から選手をかき集める野球留学をどう思いますか?

「今や北海道から九州まで全国の中学生のトップクラスが『一番強い所でやりたい』と大阪桐蔭の門を叩きます。この日の決勝で甲子園2号を放った海老根優大は千葉の京葉ボーイズ出身。これまでスカウトしなかった関東からここ3、4年、取るようになったため、関東の強豪校は『勘弁してくれ』と嘆いています。智弁和歌山もそう。昔は県外生は2人など、なんとなくルールがありましたが、新しく寮ができたことで、東京の強豪シニアから有望な子が入学してレギュラーになっています」

 ──関東から関西の強豪校へ野球留学するのは、これまでなかった?

「あまりなかったですね。ただ、バランスの問題で、人が行き来する野球留学は悪いことではないと思います。例えば、浦和学院は九州出身の子が多い(18人中11人が県外)。もし県内しか取らないとなると、公立校からほぼいい選手がいなくなります。よくいわれる明徳義塾(高知)は関西を中心とした県外の子が多いですが、もし地元の子だけでチームをつくったら、高知の公立校は大変なことになります」

 ──私学は県外、公立校は県内の選手で構成すれば、バランスが取れる?

「はい。今の子は県外へ出ることを躊躇しない。より高いレベルでやりたいという子が増えた。特に沖縄が顕著で、こちらは県外流出が問題になっています」

 ──確かに今大会は浦和学院の宮城誇南、星稜のマーガード真偉輝キアンの両エースなど、沖縄出身の選手が目立った。草刈り場になっている?

「最近は沖縄の高校が甲子園で勝てなくなっています。センバツにも出られなくなっていて、21世紀枠以外で出場したのは、15年の糸満が最後。140キロ台中盤を投げる沖縄の中学3年生は今春、神戸国際大付に進学します。沖縄の選手は身体能力が高く、有望な子は東海大相模(神奈川)や東海大菅生(東京)といった関東の強豪校をはじめ、全国に散っています」

■人口減少が続く地方が人と金を確保する野球留学

 ──それでも野球留学は必要?

「バランスですよね。以前、島根県の高野連を取材したときに知ったのですが、島根は人口が減っているので、一部の公立校では県外からの入学が認められています。高野連に所属している高校は、加盟料とともに、部員1人当たりいくらという形で高野連に登録費を払っているそうです。加盟校と野球部員が減れば高野連の予算も減るという仕組み。例えば、関西、広島、関東の子もいる石見智翠館や立正大淞南が、県外生を入学させることによって人が保てる。県内だけでやろうとなると、地方は成り立たないかもしれません」

センバツ4強の浦和学院は森大監督は父親の野球をアップデート

 ──センバツ4強のうち、浦和学院の森大監督、国学院久我山(東京)の尾崎直輝監督はいずれも31歳。若手監督も目立った。

「先日、浦和学院を取材しましたが、これまでの長時間練習を撤廃。バットを短く持ってセンター返しをするのもやめて、長く持ってフルスイングしようという野球に変わっていました。これまで父親の森士前監督がやってきた野球に新たな色を加えて、就任1年目で大きな改革に乗り出した。怒鳴り散らしたり、理不尽に怒ることも減らしたそうです。これまではノックでミスがあると、延々と終わらないこともありましたが、これもなくし、18時半で練習は終わりと決めたら、必ずその時間に終了させる。練習時間が長引くのはコーチの指導力不足で、短い時間で集中してやろうと改革を断行したのです」

■朝練を廃止し睡眠を長くしたら平均身長が2cm伸びた

 ──父親の森士前監督時代は朝練があって練習時間も長く、厳しいスパルタ式の野球だった。

「今は朝練も廃止。睡眠時間を長く取ってしっかりとした生活を送ろうと。そういう風習は全部やめるという改革です」

 ──父親の野球を継承するどころか、正反対というか、まるで反面教師。

「他の新監督ではここまで変えられないでしょう。親子だから変えられた。アップデートですね。睡眠をしっかり取ったことで、浦和学院は昨秋、チームの平均身長が2センチほど伸びたそうです。今までは毎日5時半から朝練があったため、睡眠が不足していたのかもしれません」

 ──4強に入った国学院久我山も1日3時間ほどと練習時間は短い。

「久我山は進学に力を入れているため、いい大学にいけるという人気がある。新型コロナウイルスの影響は、しばらく残ることが考えられます。時間や多くの制限の中で活動するとなったとき、メリハリをつけて練習ができる進学校が強くなるとみています。高校野球も変革のときがきています」

(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ)

▽大利実(おおとし・みのる) 1977年神奈川県横浜市生まれ。港南台高(現・横浜栄高)から成蹊大。2003年に独立。中学軟式野球や高校野球を中心に取材、執筆活動を行う。「野球太郎」「中学野球太郎」「ベースボール神奈川」などで執筆。著書に「中学の部活から学ぶ わが子をグングン伸ばす方法」(大空ポケット新書)、「高校野球 神奈川を戦う監督たち」(日刊スポーツ出版社)、「高校野球界の監督がここまで明かす! 野球技術の極意」(カンゼン)などがある。21年2月から「育成年代に関わるすべての人へ~中学野球の未来を創造するオンラインサロン~」を開設し、動画配信やZoom交流会などを企画している。

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