プロ野球「雨天中止」の損害は?「当日の商売設計図」がパー、営業担当スタッフも憂鬱に
【Q】 今季はすでに阪神の主催9試合を含め、28試合が雨天中止(代替試合で消化済みの日程も含む)。球団にとって、雨天中止の損害はどれくらいあるのですか?
【A】 雨天中止の損害は、「チケット代が戻るか」だけで見ると読み違えます。今の主催試合は、チケット、飲食、グッズ、スポンサー企画、場内イベントを束ねた1日限りの興行パッケージです。雨で流れるのは試合だけではなく、その日の商売の設計図なのです。
平均的な屋外球場なら、入場料、飲食、物販、協賛を合わせた売り上げ機会は、平日でも1億円前後、土日祝日や夏休みなどの書き入れ時になれば2億円を超えます。後日に代替試合を行えば一定程度は回収できますが、代替試合は日程の空いている平日に組み込まれることがほとんどです。土曜の人気カードが9月末の平日ナイターに化けたら、同じようには売れません。雨天中止とは、「良い日程」を「悪い日程」に交換させられること。ここが経営上いちばん痛いところです。
支出も残ります。警備、清掃、球場スタッフ、演出準備、ケータリング、用具輸送。開門後なら、なおさら費用は走ります。ビジター球団も無傷ではありません。移動費、宿泊費、用具配送が発生し、後日また同じ球場へ行く。1回の中止で500万円前後の追加負担は見ておく必要があります。
保険もあります。興行中止保険です。悪天候や突発的なトラブルによる中止を補償するオーダーメード型の商品で、プロ野球の雨天中止も対象になります。では、保険で全部戻るか。戻りません。保険は魔法の財布ではなく、補償は契約で決めた範囲だけです。代替試合で回収可能なチケット代は対象外。弁当など現物が残るものも補償されにくい。「本当なら売れたはずのビールとうどんの利益」まで丸ごと戻るわけではありません。
しかも掛け金は、支払限度額の10%前後と結構高い。少なくとも私の記憶では興行中止保険に毎試合入っている球団はありません。雨天中止だけでも払い戻しの事務コストがかかるうえ、保険に入れば、何が補償対象で、何が対象外かを細かく算出する必要が出てくる。こうなると「労多くして益少なし」です。
昔はずいぶん牧歌的でした。とくに、まだパ・リーグが今ほど商売になっていなかった時代です。チケットは「売るもの」というより「配るもの」。無料券も多く、今のように各試合にスポンサー企画がびっしり付いているわけでもありません。雨天中止は、ビジネスマターというより現場マターだったのです。
連戦続きの平日、主力は疲れている、リリーフも使い込んでいる、しかも先発はローテの谷間……そんな時に空から都合よく雨粒が落ちてくると、現場から「これは無理でしょう」という声が上がる。午前中に小雨がぱらついた程度で「本日は中止」となることも、昔は珍しくありませんでした。グラウンド状態を見ているのか、チーム事情を見ているのか、味わい深い判断です。
もちろん今は違います。プロ野球の興行は、放送権とチケットを売って終わりという単純な時代ではありません。始球式、花火、配布物、イニング間のアトラクションまで、スポンサーにとっては大事なプログラムです。代替試合でも協賛が継続される契約は多いですが、春のキャンペーン、夏のセール、地元企業の冠デーなど、その日でなければ意味が薄い企画もあります。
年間のスポンサー収入は、球団によってはチケット収入に匹敵する大きな柱。だから雨でも早々に中止は発表しにくい。軽々しい中止は、売り上げだけでなくスポンサーの信用にも響きます。長雨は現場だけでなく、営業担当スタッフをも憂鬱にさせるのです。



















