プロ戦力外翌日に会社設立、現在は保険代理店経営 土屋健二さんの原点は粗利600万円の野球教室

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TKホールディングスCEO 土屋健二(32歳・日本ハム→DeNA)

 2008年、投手として横浜高からドラフト4位で日本ハムに入団。12年にDeNAにトレード移籍し、15年に戦力外となった。引退から7年余り。土屋健二氏は今、「TKホールディングス」の社長として、保険の代理店を経営している。

 そこに至るまでに、紆余曲折の物語があった。土屋氏はこう振り返る。

「戦力外になった翌日に会社を作りました。自分が本気になれるものはなにかと考えて、サラリーマンは違うなと。茨の道かもしれないけど、自分で全責任を負える仕事が良かった」

 知り合いのツテを辿り、司法書士のアドバイスを受けて「エージェントK」を設立。具体的なビジネスプランは無かったため、登記の定款には不動産事業やコンサル業など、将来の選択肢を減らさないように、書けるだけのものを詰めこんだ。

 そうして手始めに取り掛かったのが、同年の11月に開催した野球教室だった。

「僕は野球しかやってこなかったので、それをビジネスに変えようと」

 野球教室は他のOBたちもやっているから、同じではつまらない。別の付加価値を付けるべく、参加者に肘のエコー検査の無料受診という特典を用意した。今でこそエコー検査は普及しているが、当時は違った。

「野球好きの知り合いの整形外科医に相談すると、『早期検査は素晴らしい取り組み。しかも、こっちはデータを取れる』と、無償で快く引き受けてくれたんです。子供たちはケガを予防できるし、肘の状態が芳しくなくても早期に把握すれば様々なアプローチの方法がある。参加した子供たちは今、高校生くらいかな。甲子園に出ている子もいるかもしれません(笑)」

 子供の参加費は無料。どのように利益を出したのか、さらに続ける。

「協賛企業を募りました。出資額によって、例えばA選手のサイン入りグッズなど返礼品を設定して。招待する現役選手に支払うギャラも必要でしたからね」

 繋がりのある経営者たちに頭を下げたり、飛び込みで商工会議所に行ったりもした。とにかく足を使った。結果、20社を超える企業から協賛を得られた。

「断られて当たり前だけど、熱い気持ちを伝えて突っ走ろう、その気持ちだけでした。この時に、『ビジネスはギブの与え合い』だと気付いたんです。スポンサーさんは子供を喜ばせられるし、グッズも手に入る。医師は検査データ、僕は収入が得られる。この気付きが自分の原点です。ちなみに、粗利は600万円ほどでした。現役時代の年俸を1発で稼げたのです」

 この1カ月後、背水の覚悟で1000万円の借金を背負うことになる。「自分を追い込んで、奮い立たせるためでした」と、こう続ける。

「引退直後に政府金融公庫に出していた申請が通りました。これだけの大金を借りたら、背水の陣でビジネスに取り組めますからね。お金が入り、当面の生活の目処が立ったので、それからしばらくはどんな仕事をするのか考える時間に充てました。野球教室のように単発でお金を稼ぐのはすごく簡単だけど、継続して利益を出し続けるのは至難の業だと思ったからです」

 ジムのパーソナルトレーナーなどをやりながら熟考し、辿り着いた答えが保険営業だった。現役時代から付き合いのあった保険営業マンが大金を稼いでいるイメージがあった。

「僕が保険屋をやったら、周りの人たちよりも稼げるだろうなって、なぜか思いまして」

 知人の保険営業マンに話を聞き、契約獲得件数が収入に直結することを知った。16年5月頃から保険の資格取得のため、猛勉強を始めた。

「片っ端からテキストを読んで、問題を解きまくり、分からない用語は逐一調べました。とても効率の悪いやり方だったと思う。僕は野球しかやってこなかったから(苦笑)。睡眠は3、4時間でしたが、集中力は続きました。勉強開始から2週間ほどで、まず『一般家庭』という分野の資格を取り、1、2カ月の間に10個ほどの試験に合格しました」

 土屋氏の持論は「プロ野球選手は、やろうと思えば勉強もできる」というものだ。

「正解が無限にある野球をとことん追求できるのがプロ野球選手です。勉強の問題は答えが1つ。単にやってこなかっただけで、もし勉強にフルコミットすれば、絶対にできると。ずっとそう思っていたから、勉強はキツかったけど自信はありました」

 資格を取り、保険営業マンとしてのスタートラインに立つと、知人が立ち上げた保険代理店に入社した。顧客の要望に合わせ、数ある商品の中から最適なプランを提案する仕事だ。あらゆる保険商品の知識が求められる。給料は完全歩合制で顧客は自分の人脈から開拓しなくてはいけない。寝る間を惜しみ、勉強と人脈作りに奮闘する修行生活に身を捧げた。

「人脈については、現役時代から意識してやっていたことがありました」

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