今江敏晃は前代未聞の「産休取得」を断行、プレーオフ真っ最中の出来事にコーチ陣は青ざめた
体ができていないことを除けば、直すところがなかった。私は03年から代打中心になっていたから、今江を三塁の後継者と決めて、「プロとは、ロッテとは、打撃とは……」とさまざまなアドバイスを送った。今江は嫌な顔一つせず、16歳年上のベテランの助言を聞いてくれた。
普段は物静かな男が、05年のプレーオフ期間中、ボビー・バレンタイン監督がいる監督室を訪ねてこう懇願したという。
「妻が『出産時に一緒にいて欲しい』と言っている。出産に立ち会うために1日だけチームを離れてもいいでしょうか?」
当時、日本の野球選手が、家庭の事情で試合を欠場するなど前例のないことだった。しかもパ・リーグの優勝がかかったプレーオフの真っ最中だ。コーチ陣は青ざめたそうだ。
「これを許してしまっては、チームの和を乱すのではないか?」と紛糾したが、米国人にとっては普通のこと。ボビーはあっさりチームを離れる許可を出した。
1日でチームに再合流した今江はその後、阪神との日本シリーズ第1戦で先制ソロ本塁打を放った。これで勢いに乗り、4打数4安打の固め打ち。第2戦で8打席連続安打の日本シリーズ記録を達成した。ロッテは結局4連勝で日本一。今江は15打数10安打、4打点、打率.667でMVPに輝いた。「空白の1日」が今江の爆発を呼んだのだろうか。まさに「ボビーマジック」である。