「一〇三歳になってわかったこと」篠田桃紅著

公開日: 更新日:

 芸術家はなべて長寿だといわれるが、さすがに数え年103歳で現役、しかも第一線の美術家となると例がない。本書は、墨を基調とした抽象画で世界的な名声を誇る著者が、100歳を越えて初めて見えてきたという人生の風景をつづったもの。

 いわく、90代までは、その考えや生き方を参考にする先人がいたが、100歳を越えると前例も手本もない。全部自分で創造して生きていかなければならない。要するに、「歳をとるということはクリエイトする」ことである、と。また「歳をとるにつれ、自由の範囲が無限に広がった」ように思えるという。たとえば100歳を過ぎた著者が冠婚葬祭を欠席しても、誰もとがめはしないし、事前の出欠を強要されないし、行けばたいそう喜ばれる。何かの責任や義理はなく、気楽に生きていける。そう、「百歳はこの世の治外法権」なのだ。

 生涯独身を貫き自由を求めて生きてきた著者ならではの、すがすがしく深みのある言葉が並ぶ。凡人にはとてもその高みに達することはできないが、これらの言葉に触れるだけで、元気が湧いてくる。

(幻冬舎 1000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗