癒し系キャラの“心”に迫る
「えのすい 愛しのクラゲたち」新江の島水族館著
クラゲの美しいスケッチといえば、20世紀初頭に出版された、ドイツの生物学者、E・ヘッケルの「生物の驚異的な形」が思い浮かぶ。「対称性と秩序」に着目しクラゲの「体の構造」を解き明かす歴史的名著だ。一方、100年以上の時を経て出版された本書のスタンスは一線を画す。
「クラゲの心をのぞいてみたいと思うこと。それは、自分以外のだれかのことをもっと深く知りたいと思うこと」(エピローグから)
両著作とも、対象を「集めて分類」する「博物学」の枠組みに収まっている。だが、本書で注目すべきは、美しい写真を通してクラゲへの「愛」や「共感」を呼び起こし、読者の「気持ち」に揺さぶりをかけようとしていることだ。こうしたアプローチは、アカデミック(学問的)であることにとらわれない、今日の「オープンな水族館」の姿に相通ずるものがある。ちなみに、今ではすっかり「癒やし系キャラ」となったクラゲも、旧・江ノ島水族館の97年のイベントがきっかけとなり、当時の癒やしブームと相まってそのイメージが定着していったとのこと。