【殺人事件報道】人が人を殺める――。この究極の行為の底に横たわる人生の不可思議と社会への批判を見よ。

公開日: 更新日:

「障害者殺しの思想」横田弘著

 かつて1970年代に障害者の立場から健常者の社会に強烈な批判を浴びせた「青い芝の会」。本書は同会の行動綱領を起草し、運動の思想的支柱として存在感を発揮した著者の伝説の書のおよそ40年ぶりの復刊。

 脳性まひのため学校に通うこともなく、独学で読み書きを習得。そこから詩人として立った著者は、障害を持つ我が子の前途を悲観して子殺しに走る親たちの心中に思いをはせ、障害児とその親を切り捨てる社会への強烈な怒りをことばで叩きつける。事件を報じる新聞記事は、さも同情したかのような口ぶりで「体の不自由な子供がいるとは思えないほど明るい家庭」だったと書く。しかし「不自由な体」と「明るい家庭」は無関係のはず。そんな無意識な表現のはしばしに偏見にみちたマスコミ報道の偽善と無神経が見て取れるのだ。

 いま福祉政策はかつてより充実し、70年代のような障害児殺人は影をひそめた。だが、その陰で社会の意識や医学界の無理解や偏見は変わりがない。苦悶が生み出す人殺しの思想。その刃の鋭さには息をのむ思いがする。(現代書館 2200円+税)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも