「虹のふもと」堂場瞬一氏

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 多くの警察小説を手掛ける著者だが、執筆活動のもうひとつの軸となっているのがスポーツ小説。中でも定評があるのが、野球小説だ。

「私が描く野球小説では、若さあふれる高校球児やプロ野球のルーキーが主人公になることはまずない。選手としての終盤を迎えていたり、良くてもピークにあって、この先どうするか、という選手ばかりです。野球というスポーツは、絶頂期を過ぎてからが味や面白みが出てくるものだと思っていますので」

 本作の主人公も、今年46歳になる現役ピッチャーの川井秀人。かつては日本球界を代表するピッチャーであり、海を渡りメジャーリーグでも活躍した経験を持つ。現在は日本の独立リーグに所属しているが、新設されるハワイのチームへの移籍を余儀なくされている。

 ただし、“メジャーの年金も満額の90%まで受け取れる”ほどの野球人生を送った選手だが、今の状況も実に飄々と受け入れている。

「川井という男は、別に“生涯現役を貫きたい!”などという、たいそうな夢を抱いているわけではないんです。では、設備や環境が整っていない独立リーグで、必死に這い上がろうとする若い選手たちに交じってまで、なぜ投げ続けているのか。それは、“引退に至る決定的な理由がないから”なんですね」

 若い頃のような体力や回復力はなく、肩に若干の違和感があることも確か。もはやメジャーリーグには通用しないとはいえ、しかし投げられないわけではない。すっぱりとやめる理由が見当たらないのだ。

「スポーツに限らず、中高年期を迎えれば誰にでも同じようなことが訪れるのではないでしょうか。仕事でも趣味でも、昔のように無理は利かないがまだやれるという状況で、続けるかやめるかを選択することは意外と難しい。“引き際が肝心”という言葉もありますが、本当にそうでしょうか。続けられるなら、続ければいい。川井の場合は飄々として周囲の評判など気にしない“鈍さ”が、強さにもなっているんです」

 第一線ではない。しかし、好きなことを続けていられる。それは、ある意味ぜいたくな生き方かもしれない。

 本作では野球の他にもうひとつ、父と娘の物語も描かれている。川井には美利という娘がいるが、妻と離婚して以来20年、野球にかまけて一度も会っていなかった。その彼女は、母親と共にハワイに移り住み、学生時代は女子野球でピッチャーを務めた経験を持ち、現在は川井が移籍するハワイの球団のフロントを務めていたのだ。

「野球のことしか考えられない野球少年のまま中年になった、自分たちを捨てた父親に対し、娘は厳しい言葉を遠慮なくぶつけます。これが息子なら、父親の生き方を理解したりするかもしれませんが、娘は厳しいので、そうはいきません(笑い)」

 家庭を築くことのできなかった、不器用な“野球バカ”の物語。しかし、その生きざまはどこか羨ましくも映る。

「やはり、野球モノは書いていて楽しい。今後も、いろいろな国の独立リーグを舞台にして、そこでもがく選手たちの人間模様を書いていきたいですね」(講談社 1300円+税)

▽どうば・しゅんいち 1963年茨城県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。2000年に「8年」で第13回小説すばる新人賞を受賞。警察小説とスポーツ小説の両ジャンルで多数の作品を発表している。「警視庁犯罪被害者支援課」「刑事・鳴沢了」シリーズなどの他、「傷」「黄金の時」など著書多数。

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