自民改憲草案を推し進める2つのタイプ

公開日: 更新日:

「小林節の憲法改正試案」小林節著/宝島社新書

 小林節は、かつて自民党のブレーンだった。それだけに彼らが何を、どう考えているか、よく知っている。その体験を踏まえて、小林は自民党の改憲草案を推し進めている議員には2通りのパターンがいると解説する。

「ひとつは、それなりの教養のある議員で、ヤバいとは思っているけれど、自分たちの親分(安倍首相)が言っていることである。それに逆らうと自分は不利だし、そのまま憲法草案が通ったとしても、自分は権力側にいて、規制する側だからいいか……」というタイプ。

 もうひとつは、憲法のイロハをまったく理解しようとせず、本当に自民党草案が正しいと思っているタイプ。

 後者は「議員として2代目、3代目の世襲貴族に多い」タイプで、「明治憲法下でも偉い人だった家の子孫」である。

 まず、彼らの最大の間違いは、憲法は権力者を縛るものであるのに、そう考えないこと。「憲法のイロハ」をまったく理解しようとしない者たちが憲法改正を唱えているのである。

 さらに、自民党草案には「個」がない。彼らに「個」がないからだと皮肉りたくなるが、自民党側のある論客は「戦後の日本国憲法がアメリカから個人主義を日本に持ち込んだ。個人主義を持ち込んだために社会の絆が緩んで社会がばらばらになった。だから親殺し、子殺しなどの悲惨な犯罪が増えた」などと発言し、それで「個人主義に反対だ」と主張したという。しかし、悲惨な犯罪が増えたという統計上の根拠はなく、親殺しはむしろ明治憲法下の方が多くあるのである。

 また、女性選挙権を含む人権が認められたのが彼らは気に入らない。バカな自分たちに対しても黙って従えと言いたいのだろうか。

 以前の小林は「戦争ができないのは憲法のせい」だと思っていたが、今は「戦争がなかったのは憲法のおかげ」と考えを改め、ただ、前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」の「信頼」を「期待」に修正するよう提案する。自民党や右翼がいつも、ここに噛みつくからである。

 小林は前に「あんただったら、それなりの大物になれるから、もっといい生活ができるよ」とヤクザに誘われたことがあるらしい。「趣味」ではないので断ったが、「大学の教授なんかどうせ安月給だろう」と、さらに説得されたという逸話も披露している。★★★(選者・佐高信)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  2. 2

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  3. 3

    Snow Man目黒蓮と佐久間大介が学んだ城西国際大メディア学部 タレントもセカンドキャリアを考える時代に

  4. 4

    ポンコツ自民のシンボル! お騒がせ女性議員3人衆が“炎上爆弾”連発…「貧すれば鈍す」の末期ぶりが露呈

  5. 5

    高市新政権“激ヤバ議員”登用のワケ…閣僚起用報道の片山さつき氏&松島みどり氏は疑惑で大炎上の過去

  1. 6

    クマが各地で大暴れ、旅ロケ番組がてんてこ舞い…「ポツンと一軒家」も現場はピリピリ

  2. 7

    田村亮さんが高知で釣り上げた80センチ台の幻の魚「アカメ」赤く光る目に睨まれ体が震えた

  3. 8

    自維連立が秒読みで「橋下徹大臣」爆誕説が急浮上…維新は閣内協力でも深刻人材難

  4. 9

    ラウールが通う“試験ナシ”でも超ハイレベルな早稲田大の人間科学部eスクールとは?

  5. 10

    「連合」が自民との連立は認めず…国民民主党・玉木代表に残された「次の一手」