著者のコラム一覧
太田治子作家

1947年生まれ。「心映えの記」で第1回坪田譲治文学賞受賞(86年)、近著に「星はらはらと 二葉亭四迷の明治」(中日新聞社)がある。

モネの「かささぎ」は腰抜けな絵!?

公開日: 更新日:

「新生オルセー美術館」 高橋明也著(新潮社1800円+税)

 パリのオルセー美術館が、開館30周年を迎えたという。ルーブルよりはるかに親しみが持てるのは、私が大好きな印象派、ポスト印象派の画家たちの絵が中心に置かれているからだった。厳密にいえば、1848年から1914年までの美術品である。ルーブルの途方もないほどの美術品の数を思えば、いかにもこぢんまりとまとまって見える。しかし、実はオルセーのコレクション総数は、16万8000点を超えるという。どうしよう。なんだか、おろおろしてしまう。いや、心配ありませんよ、と三菱一号美術館館長の高橋明也さんがいとも柔らかくオルセーの名品94点を解説してくれるのがこの本である。

 まず新古典主義の画家アングルの「泉」から楽しい解説がスタートする。「アニメキャラのフィギュアに近いものを感じさせますよね(中略)女性の裸体の『アイドル化』の頂点のようなものではないでしょうか」という高橋さんの言葉に、思わず笑ってしまった。博識の高橋さんは、今の世相にもこのように詳しかったのだ。

 ゴッホの最晩年の「自画像」も、メラメラした感じが漫画的表現だという。確かに、そんな気もしてくる。モネの名作「かささぎ」について、ただ感じのいい風景、意味性も物語性も批判精神もない、思想性ゼロという点では、まったく腰抜けな絵という解説には、びくりとした。しかしすぐ後、この「視線の軽さ」こそ、絵画の革新的なことだったという解説が続く。実にわかりやすいのだった。

 ちなみに、高橋さんの最後の1点は、マネの「アスパラガス」だった。1本のアスパラガスが、とてもおいしそうに見える。この本の最大の魅力は、そうやって厳選された94点の名品を、すべて美しいカラーで見ることができるところにある。私の1点を選ぶとすると、やはりマネの代表作「バルコニー」となる。あの絵の中の女性の恋する瞳に、私はずっと恋している。

【連載】生き生きと暮らす人生読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    【原田真二と秋元康】が10歳上の沢田研二に提供した『ノンポリシー』のこと

  3. 3

    カーリング女子フォルティウスのミラノ五輪表彰台は23歳リザーブ小林未奈の「夜活」次第

  4. 4

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  5. 5

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  1. 6

    福山雅治&稲葉浩志の“新ラブソング”がクリスマス定番曲に殴り込み! 名曲「クリスマス・イブ」などに迫るか

  2. 7

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  3. 8

    松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情

  4. 9

    年末年始はウッチャンナンチャンのかつての人気番組が放送…“復活特番”はどんなタイミングで決まるの?

  5. 10

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった