アメリカ最強部隊が欠かさない地道な分析会議
SEAL(アメリカ海軍特殊部隊)といえば、ウサマ・ビンラディン暗殺を完遂した最強部隊。アメリカではスーパーヒーローのように称えられている存在だ。しかし、時に命を犠牲にしながら任務を遂行する背景には、気の遠くなるような努力と献身と試行錯誤の日々がある。
マーク・オーウェン著、熊谷千寿訳「NO HERO アメリカ海軍特殊部隊の掟」(講談社 1800円+税)は、特殊部隊の裏の裏が描かれたノンフィクション。ビンラディン急襲作戦「ネプチューンスピア」でチームリーダーを務めた著者が、SEALが、いかに地道な訓練を積み重ねているのかを明らかにしている。
SEALでは、隊員同士の意思疎通を図るために繰り返し会議を行い、相手の意見に耳を傾け、研究し、ミスがなくなるよう、何度も何度も検討するなど、まるで一般企業のような活動も多いという。とくに重要視されているのが、AARと呼ばれる、作戦後の分析検討会だ。
AARでは、作戦立案から潜入、通信、諜報、撤収など、細かくチェックしながら分析を行っていく。ある作戦ではタリバン勢力の指揮官を追跡しており、隠れ家は大量の武器や弾薬の隠し場所になっていることもつかんでいたが、渓谷を縫って逃亡するターゲットに逃げられてしまう。長い任務を終えてくたくたになった直後に、なぜ作戦が失敗したかを話し合うのは骨が折れる。しかし、次の作戦を円滑に進めるためには、ミスを素早く修正して、情報共有することが不可欠なのだという。
戦場には、さまざまな“規則”があり、いつ、いかなる相手に、どのように武器を使用するかなどを定めた交戦規定が、政治情勢により、刻々と変わる。現在は目視によって武器を確認しなければ、攻撃は許されない。ドローンなども活用されているが、タリバンも学んでおり、接近しにくい地域を選んで逃亡を繰り返しているのだという。
安倍政権下では、日本の自衛隊も実戦投入される可能性がある。厳しい環境の中で、作戦を遂行しながら、隊員の命を守ることがいかに難しいかを、本書は突きつけている。