タイガーマウンテン(虎ノ門)「役目を終えた本同士が隣に並ぶだけで見る人の中に新しい文脈が生まれるんです」
オフィス街の一角、ガラス張りの店内に古本がずらり。昼休みのサラリーマンが吸い込まれるのに交じって、入る。
■横尾忠則、石岡瑛子…本をデザインした装丁家ごとに集めて陳列
棚の前に立つポップに、「横尾忠則」「石岡瑛子」「安野光雅」「粟津潔」「田中一光」「杉浦康平」「寺山修司」……。
「本をデザインした装丁家ごとに集めて置いています。100人ぐらいでしょうか」
と、店長の鈴木理利子さん(27)。運営は、元「WIRED」日本版編集長の若林恵さんが代表のコンテンツレーベル「黒鳥社」。出版やポッドキャストと並ぶ“コンテンツの一環”として昨年2月に開いたそう。
中心は1960~90年代の本。なぜこの時代?
在庫は約4400冊。若林さんが古本市などで買い付けてきた。神保町で数百円の本も、開けば横尾忠則の装丁だったりする。値札だけでは見過ごされる“仕事”が拾い上げられているのだ。
大女優、淡路恵子が雑誌「ミセス」の表紙でほほ笑んでいるぞ。本多勝一「ルポルタージュの方法」の表紙はこうも潔かったのね……と、面陳列を見て独りごちる。
中心は1960~90年代の本。なぜこの時代なのか。
「今ほど分業化が進んでいなくて、詩も書けば劇も作る、ジャンルを横断する人が大勢いた。その間に立ってハブになったのがデザイナーだ、と若林は言っています」
80年代後半にバーコードの印字が始まるまで、表紙は隅々までデザイナーのものだったとも言う。
なるほど、粟津潔の棚には寺山修司の「幻想図書館」「不思議図書館」。杉浦康平の棚には稲垣足穂も馬場あき子も。サントリーのPR誌「洋酒天国」をめくれば、編集発行人に開高健、カットに柳原良平。1冊見るだけでも、どこに人が集まっていたかが見えてくるじゃない。片っ端から手に取り、そのたびに「うわあ」と声が出る。
東京芸大大学院で、映像を軸に幅広い表現に取り組んできた鈴木さんにとって、古本は「一番いい距離感のもの」。
「新刊は今の人に、古本は当時の人に向けて出された本。役目を終えた本同士が隣に並ぶだけで、見る人の中に新しい文脈が生まれるんです」
店の半分ほどはギャラリーで、訪ねた日は、NOT A HOTELが発行する「THE NEW JAPAN」の最新号・宮崎特集に合わせた写真展が開かれていた。数々のどこか懐かしい光景にも見入り、ついつい3時間近く滞在した。
◆港区虎ノ門3-7-5 虎ノ門Roots21ビル1階/東京メトロ日比谷線虎ノ門ヒルズ駅から徒歩5分/℡03-6809-1105/午後1~8時(日曜は午後6時まで)、月・火曜・祝日休み
ウチの推し本
「ミセス全集第5巻料理篇」味の上等 文化服装学院出版局編・発行
1968年刊。人気だった主婦向けライフスタイル誌「ミセス」の総集編的全集の第5巻。箱入り。アートディレクターは江島任。
「余白の使い方がとにかくきれい。端から端まで全部にピントが合う料理写真の撮り方も、今とはずいぶん違います。月ごとに、旬の素材と料理が写真と文章で紹介されていて、紙に乗っかっている“重量”がすごいんです」
(古本売値 3850円)
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