北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「北海タイムス物語」増田俊也著

公開日: 更新日:

「北海タイムス」は北海道に実在した新聞である。歴史ある新聞であったが、1998年に休刊。本書はその新聞社を舞台にした小説だが、読み始めるとやめられなくなる。

 とにかく労働環境が半端ないのだ。手取りで13万ちょっとという低賃金で、部次長になっても年収は200万円。だから、休みの日に工事現場に働きにいく。そうしないとやっていけないのだ。昼飯時になると、ビニール袋から米飯を取り出し、おにぎりを作り塩をつけて食べるシーンにも驚く。新聞社に勤める整理部の社員が、ただの米飯が甘いと感じるシーンで、これは本書の中の象徴的な場面といっていい。内職に出かける時間があるのはまだいいほうで、超過勤務のためにその内職もままならないのが実態。肉や刺し身を食べてみたいと嘆く場面も頻出するが、その過酷な労働の日々が、これでもかこれでもかと描かれていく。

 そこで働く人間たちも超個性的な連中ばかりで、ぶつかっては酒を飲み、そのまま会社の隅で寝る。北大柔道部の青春を描いた自伝的小説「七帝柔道記」も熱い小説だったが、今回も前著に負けず劣らず熱い。

 主人公は全国紙の採用試験にすべて落ち、何も知らずに北海道にやってきた野々村巡洋。取材記者志望だったのに整理部に回され、しかも先輩が厳しく、涙にくれる毎日だ。その青年がたくましくなっていく圧巻のラストまで一気読みの傑作である。(新潮社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  2. 2
    「ダルよりすごい」ムキムキボディーに球団職員が仰天!プロ3、4年目で中田翔より打球を飛ばした

    「ダルよりすごい」ムキムキボディーに球団職員が仰天!プロ3、4年目で中田翔より打球を飛ばした

  3. 3
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  4. 4
    22年は尻回りが推定1.5倍に増大、投げても打ってもMLBトップクラスの数値を量産した

    22年は尻回りが推定1.5倍に増大、投げても打ってもMLBトップクラスの数値を量産した

  5. 5
    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

  1. 6
    橋下徹氏&吉村知事もう破れかぶれ?万博の赤字に初言及「大阪市・府で負担」の言いたい放題

    橋下徹氏&吉村知事もう破れかぶれ?万博の赤字に初言及「大阪市・府で負担」の言いたい放題

  2. 7
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  3. 8
    大谷の2023年は「打って投げて休みなし」…体が悲鳴を上げ、右肘靭帯がパンクした

    大谷の2023年は「打って投げて休みなし」…体が悲鳴を上げ、右肘靭帯がパンクした

  4. 9
    「横浜愛」貫いた筒香嘉智 巨人決定的報道後に「ベイスターズに戻ることに決めました」と報告された

    「横浜愛」貫いた筒香嘉智 巨人決定的報道後に「ベイスターズに戻ることに決めました」と報告された

  5. 10
    河野太郎大臣「私は関わっておりません」 コロナワクチン集団訴訟で責任問う声にXで回答…賛否飛び交う

    河野太郎大臣「私は関わっておりません」 コロナワクチン集団訴訟で責任問う声にXで回答…賛否飛び交う