著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

「身の丈を超える」ことを信条とする変人一代記

公開日: 更新日:

「爆走社長の天国と地獄」木村元彦著/小学館900円+税

 日本橋の忍者イベントに行ったら、忍者服で現れたおじさんがウキウキしながら「忍者が日本を救う」とか語っている。この忍者おじさん、誰? その正体は、大阪観光局の局長。さらに大分トリニータをつくった男だと聞いて驚いた。

 本書には、溝畑宏氏がプロサッカーチームを立ち上げ、追放された15年の軌跡が書かれている。数学者の父のもとで育ち、東大へ。履歴書の写真貼付欄に似顔絵を描いて送ったものの、国家公務員試験はパス。絵に描いたようなエリート街道だが、日本の中枢、大丈夫か? 

 異色の新人類として名を馳せた溝畑氏が霞が関の仕事に飽きたころ、大分県庁へ。“東京のお客さん”として静かに数年過ごせば出世も期待できるのだが、ある日、イタリアにいた父に呼ばれ、そこで見たサッカーのワールドカップの熱気に衝撃を受ける。

 小さな街が官民一体となって大盛り上がり。地方を元気にするのはこれだ! と思った溝畑氏は、まったくサッカー熱のない大分で、プロチームづくりをはじめるのである。

 知事を味方につけ選手を集めたものの、グラウンドがない。ある企業の野球の練習場に真夜中、忍び込み、マウンドをせっせと削る……って、官僚がそんなことしていいの!? いや、官僚でなくとも不法侵入だが、「懲戒免職手前のことは全部やる」と息巻く。あとは金だ。1日40社まわり寄付を集め、夜は宴会場で裸踊り。まさに地を這う金集めである。

 負ければ「溝畑、やめろ」とサポーターから水やゴミを投げられ、何もしないが妨害だけはする地元の権力者たち。嫁にも逃げられ、国家公務員をやめ出世も捨て、1億近い私財をつぎ込み貯金はすっからかん。

 周りから「バカか」と言われながらも、この愛すべき男を助ける財界人や地元の人々も強烈に人間くさい。グラウンドの選手ばかりに光が当たるが、場外乱闘がこんなにおもしろいとは。「身の丈を超える」ことを信条とする変人一代記。サッカーを知らない人でも一気に読めるだろう。

【連載】白石あづさのへんな世界

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