著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「フェイスレス」黒井卓司著

公開日: 更新日:

 あなたが、先輩の婚約者に思いを寄せていたとする。ひそかな片思いで終わると思っていたら、ある日3人が乗っていた車が事故を起こし、先輩だけが死亡する。こうなると、残された2人が、時間はかかるものの、結ばれたとしても不思議ではない。先輩には申し訳ないが、こういうふうになったことを、あなたは喜ぶかも。

 しかし、もしも、死んだはずの先輩があなたの前に現れたらどうする? 喜んでいる場合ではない。現実にはそんなことは起こりえないが、小説ではしばしば起こる。

 たとえば、この世界がもう一つほかにあって、その「向こう側の世界」では、「こちら側の世界」とほんの少し違っていたら? つまりパラレルワールドだ。

 こちら側では先輩が事故で亡くなったが、向こう側の事故ではヒロインが亡くなっているのだ。だから先輩は婚約者に会いにこちら側にやってくる。彼女のいない世界はつらすぎると。さあ、あなたはどうする?

 本書はそういう話だが、意図的に紹介を省いた個所がある。向こう側からやってくるのは先輩だけではないのだ。瞬間進化して殺人マシンと化したアリがやってくるのだ。なぜか、ということは本書を読まれたい。その背景には、それぞれの世界の思惑があり、それが複雑に絡み合っているのである。いやあ、面白い。

 単行本はこれがまだ2冊目という新人作家だが、この才能に注目しておきたい。(KADOKAWA 1400円+税)

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