「凹凸を楽しむ東京坂道図鑑」松本泰生著

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 東京には名前がついている坂だけで実に1200カ所近くあり、これだけ多くの坂に名前がついている都市は、世界でもまれだという。本書は、東京23区内にある800カ所以上の坂からえりすぐりの魅力ある坂を紹介するガイドブック。

 まずは千代田区。「九段坂」は江戸初期にできたと伝わる古い坂。当時、あたりは飯田町という町名で、当初の坂名も「飯田坂」だった。その後、宝永年間(1704~11年)に坂に沿って九段になった長屋が造られたので「九段」という由来が有力。一方で坂の途中の石段が九段だったからという説もあるそうで、「江戸名所図会」には、階段状に並ぶ長屋も途中の石段も描かれているそうだ。

 その他、神楽坂(新宿区)や乃木坂(港区)、道玄坂(渋谷区)などのお馴染みの坂から、かつては浅間坂と呼ばれた急坂だったが、私財を投じて坂を緩やかに改修した英国人技師の名にちなんだ「ゼームス坂」(品川区)や、近所に住んでいた医学博士が開発した清涼飲料水の名からつけられた「どりこの坂」(大田区)などの地域住民に愛される坂まで、142の坂をイラストや写真、土地の高低を再現した凸凹地図で案内してくれる。

 坂好きで知られるタレントのタモリ氏は、坂道観賞のポイントとして①勾配の具合、②湾曲のしかた、③まわりに江戸の風情をかもしだすものがある、④名前に由来、由緒がある、の4点を挙げる。

 著者は坂からの眺望も加え、あまたの坂からお薦めを厳選している。

 御茶ノ水駅近く、中央線の脇を西に向かって上る「淡路坂」は、江戸期に坂上に鈴木淡路守という人が住んでいたことに由来する。ちなみに、神田淡路町の町名も同じ由来だそうだ。

 淡路坂は他に「大坂」と「一口坂」という2つの別名を持つ。前者は、長く大きな坂ということからつけられたそうだが、後者はかつて坂上に祭られ、現在はよそに遷座した太田姫稲荷神社が「一口稲荷」と呼ばれていたからだという。坂名には、その土地と住人たちの歴史が詰まっているのだ。

 他にも太田道灌がかつてこの坂の上にあった城を攻め上がったことから「攻坂」との呼び名が転化した「蝉坂」(北区)や、遊女小紫を捜しに来た禿が襲われて命を落とし坂上に葬られたという「禿坂」(品川区)などの物語性がある坂、そして名前はないが明治時代の姿がそのまま残っている住宅街の急斜面をV字形に折り返す「V字形の坂」(渋谷区)など、読み始めると坂の魅力にハマって、止まらなくなる。

「見て楽しむ」「歩いて身体的に楽しむ」「知って楽しむ」ことができる坂には無限の魅力があるという著者の言葉に納得。街歩きの新たな楽しみ方を教えてくれるお薦め本。 (洋泉社 2000円+税)

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