「マイクロシェルター」 デレク・ディードリクセン著 金井哲夫訳

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 ここでのシェルターとは必要最低限の住まいの意で、「起きて半畳寝て一畳」ということわざを体現する人々の極小「マイホーム」を紹介するビジュアルブック。

 自らもマイクロシェルターの設計・建築を手掛ける著者が、同好の士たちが住む個性的な「作品」を訪ね歩き、写真や間取りイラストで詳細を紹介しながら、その魅力や作り方までを解説する。

 ウサギ小屋と揶揄される日本の家にも、さらに小さな狭小住宅といわれる物件群があるが、それらは主に約15坪(50平方メートル)以下の土地に建てられる建物を呼ぶ。一方のマイクロシェルターは、さらに狭さを極め、床面積10平方メートル以下はざらだ。

 だからといって、暮らすうえでの何かを我慢しているわけではない。カリフォルニア・オークランドの設計事務所の共同経営者マット・ウォルピの「タイニーハウス」は、約9平方メートルの広さに、2小口バーナーのある完全なキッチンと下水道システム、ロフトには標準サイズのベッドも備えながら、開放的な居住スペースが確保されている。

 マットの家はトイレとシャワーが戸外だが、ワシントン州シアトルにあるミュージシャンでB&Bのオーナーでもあるハル・コロンボが自ら設計した「ウバーファンキー・マイクロゲストハウス」は、床面積わずか約6・3平方メートルながら、電話ボックスのようなウエットバス(シャワーとトイレが一緒になった部屋)の他に、床にはフルサイズのバスタブまで埋め込まれている。他にもガレージの自動ドアのメカニズムを再利用した収納式ベッドなど、隅々までアイデアに満ちた「家」は、まさにクリエーティブな作品といえる。

 ギョーム・デュティルとジェナ・スペサードが暮らす「ジャイアント・ジャニーホーム」は、土地という拘束から放たれた車輪付きのいわばトレーラーハウスなのだが、その外観は築75年の納屋を羽目板に再利用した、まるで絵本に出てくるような動く家そのもの。ロフトに上がるはしご代わりの「箪笥階段」状の家具など、省くものと必要なものの徹底的な淘汰の末に行きついたその内部は、心地よさそうだ。

 他にも、生活のミニマム化も必要とせず、日々を暮らす「家」とまではいかなくとも、庭に建てて隠れ家や書斎として楽しむシェルターや、遊び心いっぱいの樹上の隠れ家「ツリーハウス」など50余軒の物件を取り上げる。

 マイクロシェルターは、単なる住居の広さの問題ではなく、ミニマリストにも通じる、生き方や価値観の問題でもあるようだ。一方で、その写真を眺めていると、少年時代の「基地ごっこ」の楽しさを思い出す。

 (オライリー・ジャパン2600円+税)

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