• facebook  
  • twitter  
  • Facebook Messenger

「演技する道化 サダキチ・ハートマン伝」田野勲著

 長年にわたって20世紀のアメリカ文化を研究してきた著者は、資料の中でしばしばサダキチ・ハートマンの名と出合った。芸術について熱い論評を繰り広げるこの男は一体、何者なのか。その足跡をたどる旅が始まった。

 サダキチ・ハートマンは幕末の長崎、出島で生まれた。父はドイツ人貿易商で母は日本人。生後間もなく母が病死し、父の故郷であるドイツ・ハンブルクで育つ。14歳のとき、叔父を頼ってアメリカ・フィラデルフィアに移住。新天地で芸術に目覚めていった。17歳のとき、近くの町に住む著名な詩人、ウォルト・ホイットマンを訪ね、50歳近い年の差を超えて交流が始まった。また、ヨーロッパを旅しては、芸術家たちと接点を持った。

 その後、ボストン、ニューヨークと拠点を移し、放浪者のような生活を続けながら多彩な活動を展開する。詩や小説や戯曲を書き、美術評論家として論陣を張り、前衛思想家として過激な発言を繰り返す。アメリカ美術史や日本の美術に関する著作をまとめ、ジャポニズムの伝道師ともなった。

 だが、この才能あふれるボヘミアンの先駆的な業績は、評価されなかった。その大きな理由は、彼が希代の問題児だったからだ。借金の常習犯、2度の逮捕歴、悲喜劇的な女性遍歴、恩人とのトラブル。こうしたネガティブな側面を差し引いても、彼の業績は正当に評価されるべきではないのか。そうした思いに駆られて、著者はハートマン研究に力を注いだ。そこから浮かび上がってきたのは、終生、「喜劇」の仮面をつけて道化を演じ続けた男の姿だった。ハートマンの正妻ベティーは、晩年こう語っているという。

「彼は4分の3は天才で、4分の1は悪魔でした」

 既成の秩序を無視して人生を駆け抜けたボヘミアン。彼の人生をたどることによって、19世紀後半から20世紀前半にかけてのアメリカ文化の様相も浮かび上がってくる。(ミネルヴァ書房 7000円+税)


日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    キムタクは“御一行”で…被災地を単身訪れた斎藤工との差

  2. 2

    徳永有美アナが古巣に復帰 「報ステ」現場は大ブーイング

  3. 3

    元SMAP3人は自由を謳歌 シャッフルして新たな仕事が急増中

  4. 4

    小川アナの左腕が物語る…嵐・櫻井翔“新恋人報道”の違和感

  5. 5

    大激怒から落胆へ…爆問・太田“裏口入学”報道の複雑胸中

  6. 6

    流した浮名は数知れず 前田敦子&勝地涼“電撃婚”の舞台裏

  7. 7

    日本人拘束は進展ナシ…「安倍3選」を阻む北朝鮮の仕掛け

  8. 8

    太田光“裏口”報道は法廷へ 光代社長「橋下先生に委任状」

  9. 9

    カネと欲望がうごめく甲子園 ネット裏“怪情報”<番外編>

  10. 10

    巨悪に甘い日本の大メディア 米新聞トランプ一斉批判で露呈

もっと見る