ワインのように味わい深いおじさんたち

公開日: 更新日:

「パリのすてきなおじさん」金井真紀/文と絵、広岡裕児/案内

 パリの街角で、これはと思った「おじさん」たちを突撃取材したインタビュー&イラスト集。

 なぜパリでおじさんなのか。著者は、かつて伊丹十三氏が語っていた言葉を取り上げ、その理由を明かす。氏によると、両親が押し付けてくる価値観や考え方に閉じ込められている少年がいたとして、「ある日、ふらっとやってきて、両親の価値観に風穴をあけてくれる存在、それがおじさん」だという。

 親戚のおじさんや飲み屋のマスター、仕事場の先輩ら、自身も多くのおじさんに風穴をあけてもらった著者は、「選球眼」ならぬ「選おじさん眼」を磨き、気づいたら無類のおじさんコレクターになっていたそうだ。

 本書は、そんな著者が現地在住のジャーナリスト・広岡氏の案内で作り上げたパリのおじさんコレクションなのだ。

 まずは、高級そうなチビ犬を連れて、さっそうと歩くおしゃれなおじさんに声をかけ、カフェで話を聞いてみる。

 おじさんの名はイヴ・ロージンさん、50歳。今は画家だが、数年前まではピアニストだったという。経歴もおしゃれだが、画家になった理由を聞くと数年前に亡くなった妹の死がきっかけだそうで、楽しく華やかなだけの人生ではなかったことが分かる。

 その他、LGBTセンターでボランティアをするエルベ・カルドさん(42歳)や、人通りのない路地の小さな店でアラブ菓子を売るギイ・ボコブザさん(72歳)、ホロコーストを生き延びたロベール・フランクさん(87歳)、アフリカ人街のかつら職人・ダニエル・ディアソナマさん(56歳)など、30人以上の人種も職業も異なるおじさんが登場。

 どの人も、ワインのように時の積み重ねによって深い味わいを醸し出している。

 (柏書房 1600円+税)

【連載】発掘おもしろ図鑑

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾