1968年の熱気と空気を伝えるポートレート集

公開日: 更新日:

「青春 1968」石黒健治著

 今からちょうど半世紀前の1968年、チェコスロバキアで民主化運動「プラハの春」が、パリでは「五月革命」が始まるなど、「既存秩序への疑問と反対の意思表示が奔流となって堰を破り」、世界各地に広がっていった。ベトナムでは戦火が激しさを増し、日本では高度経済成長を象徴するかのように霞が関ビルが開業するなど、混乱と高揚に満ちた時代であった。

 本書は、そんな時代の最先端を駆けていた各界の著名人たちのポートレート集だ。

 カウンターカルチャーの旗手として、短歌から演劇、競馬評論などジャンルを超越して活躍した寺山修司(33歳・以下、すべて当時)は前年の67年に活動の拠点となる演劇実験室「天井桟敷」を設立。寺山とともにアングラ四天王の一角を成した「状況劇場」の唐十郎(28歳)も同じく67年から新宿・花園神社を拠点に紅テントでの活動を始めた。

 他にも社会現象を巻き起こしていたザ・タイガースや、映画から転身して「夜のヒットスタジオ」などの司会で人気を博した芳村真理(33歳)、ハーグ・フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者に就任した岩城宏之(36歳)ら、登場する人々にとっても1968年をまたぐ、2、3年がそれぞれにとっての大きな転換点であったことが分かる。

 この年は川端康成(69歳)が日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した年でもある。作家たちもまたこの時代、小説家の枠を超えて新しい時代のシンボルとなっていった。

 前年に直木賞を受賞したばかりの野坂昭如(38歳)や生島治郎(35歳)、「レイテ戦記」を執筆中の大岡昇平(59歳)、三島由紀夫(43歳)ら、そうそうたる面々が並ぶ。

 彼らとともに紙面を飾る五木寛之(36歳)は、本書に寄せた一文で「嵐のような’60年代~’70年代は、’68年にすべてのテーゼが出揃った。’68年こそは20世紀後半を左右する年であったと言ってもいいだろう」と1968年を定義する。

 世界の動きと呼応するように日本の学生たちもキャンパスを飛び出し、米原子力空母エンタープライズの佐世保港入港阻止や成田空港反対運動など、社会問題に向き合い、体制への異議を唱え闘っていた。

 その先頭に立っていた全学連委員長の秋山勝行(26歳)ら活動家も網羅する。

 さらに警察や機動隊と衝突した学生らが逃げ込んだ深夜上映の映画館の任侠映画に出演していた高倉健(37歳)や、藤純子(富司純子、23歳)、カウンターカルチャーの中心だった新宿のその渦の中心だった「アートシアター新宿文化劇場」と地下劇場「蝎座」の支配人・葛井欣士郎(43歳)と、その舞台に立っていた加賀まりこ(25歳)や山口崇(32歳)ら俳優など。約150人もの時代のトップランナーが登場。

 それぞれの放つオーラや眼光が、1968年の熱と空気を伝える。(彩流社 3200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    大谷2戦連続6号弾 先輩の雄星も驚く「鈍感力」発揮!名門球団の重圧や水原問題もどこ吹く風

    大谷2戦連続6号弾 先輩の雄星も驚く「鈍感力」発揮!名門球団の重圧や水原問題もどこ吹く風

  3. 3
    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

  4. 4
    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

  5. 5
    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

  1. 6
    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

  2. 7
    佐々木朗希にメジャー球団は前のめりも…ロッテ首脳陣が依然として計算できない脆弱ボディー

    佐々木朗希にメジャー球団は前のめりも…ロッテ首脳陣が依然として計算できない脆弱ボディー

  3. 8
    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

  4. 9
    阪神・岡田監督ようやく取材解禁の舞台裏 もう怖いものなし?今後の報道に忖度生じる可能性

    阪神・岡田監督ようやく取材解禁の舞台裏 もう怖いものなし?今後の報道に忖度生じる可能性

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異