「火のないところに煙は」芦沢央著

公開日: 更新日:

 作家の「私」は、書いたことのない「怪談」の執筆を依頼された。「あのこと」を書いてしまっていいものだろうか。逡巡しながら、お札で閉じられた封筒を取り出す。中には1枚のポスターが入っていて、そのポスターには、不吉な黒い染みがある。私は彼女を救えなかった……。後ろめたさを感じながら、パソコンに向かった。

 友人の身に起こった奇怪な出来事を題材に「染み」という短編を小説雑誌に発表した後、「私」には、人づてに怪談情報が寄せられるようになり、それらをネタに5話の短編を書くことになった。

 初対面の相手に、家族の不幸を一方的にしゃべりまくって救いを求める「お祓いを頼む女」。新婚のサラリーマンが隣家の中年女に根も葉もない不倫疑惑をかけられる「妄言」。若いネイリストが業火に身を焼かれる夢を繰り返し見る「助けてって言ったのに」。1人暮らしを始めた大学生が女の子の幽霊に怯える「誰かの怪異」。

 それぞれ全く別の話なのに、どこかでつながり、怪異が連鎖する。神楽坂の母と呼ばれる占い師、目の付けどころが鋭いオカルトライター、静かなる祈祷師など、その筋の登場人物も多彩。

 5話を1冊の本にまとめるために読み返していた「私」は、恐ろしい真実に驚愕する。脳裏に声が響く。「絶対に疑ってはいけないの」。この暑さを吹き飛ばす清涼感たっぷり。

(新潮社 1600円+税)


【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言