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「時事漫才」爆笑問題著

 お笑い芸人の「文豪化」が甚だしい。「知名度が高いから出版社も芸人本に積極的」と揶揄(やゆ)する声も。ただし、食わず嫌いはよくない。芸人はそもそも言葉の人だ。彼らの本がつまらないわけがない……と、ハードルを上げておいてから、最新の面白芸人本を紹介しよう。

 テレビ・ラジオではもはや大御所の爆笑問題。雑誌連載「爆笑問題の日本原論」シリーズも今作で8冊目となり、タイトルを新たにしたという。「宝島30」「日本版WIRED」「サイゾー」「WiLL」「Hanada」と、河岸を変えても、連載は24年続いているのだ。掲載誌が左から右へ、との疑問も多いが、著者は「連載できるのであればどこでもいい」と書いている。

 内容は言うまでもなく、爆笑問題の核である軽妙な時事ネタいじりだ。政治も芸能界も社会問題も、何でもござれ。田中裕二が話題を端的に解説し、太田光がボケる。炎上案件には喜々として油を注ぎ、礼賛話にはヤジを飛ばす。芸能人同士が本来なら言及を控えるスキャンダルネタも、あおる・からかう・笑わせる。

 時事漫才は文字で読んでも意外と面白い。ふたりの息遣いと軽妙なやりとりが浮かび上がる。太田が好んでやまない小倉智昭のカツラネタはそろそろ食傷気味だが、右派・左派からの批判の矢面に立たない絶妙なネタ選びとバランス感覚に賞味期限はなさそうだ。

 (太田出版 1600円+税)

「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」阿佐ヶ谷姉妹著

 ラブリーなピンク色の衣装に美しい歌声、眼鏡にボブスタイルの地味な2人組・阿佐ヶ谷姉妹がつづるリレーエッセー。顔は似ているが姉妹ではないふたりが、6畳一間に共同生活。そこはかとなく漂う40代半ばの女性の憂いと諦観と開放感、四六時中顔を突き合わせる相方へのこまやかな不満と絶えることのない愛。

 性格は真逆のようで、文章からも明らかに相違点が読み取れる。それでも共に暮らす最高の相方でソウルメートなのだ。布団の位置、台布巾や輪ゴムの処遇、シャワーの温度に、ロケ弁当の付属品バター……どうでもいい些末なことなのだが、ふたりが書くとなぜか清貧。品の良い庶民のつましい暮らしぶりが「THE日常」としてつづられていく。

 エッセーに加えて、本書ではそれぞれが短編の恋愛小説にも挑戦。男心はくすぐらないが、女心にはスーッと染み入る奥ゆかしさを楽しめる。

 実は、6畳一間ふたり暮らしを卒業したというが、納得の結末にしみじみ。女の幸せとはなんぞやと考えさせられる。

 (幻冬舎 1200円+税)

「一発屋芸人列伝」山田ルイ53世著

 シルクハットにえんび服、ワイングラス片手に「ルネッサーンス!」のネタで一躍有名になった髭男爵。著者はまさに一発屋芸人であり、栄華と凋落を味わったひとりである。そんな彼が世間で一発屋と呼ばれる芸人たちの「その後」を追ったドキュメンタリー作が本書。話題の「新潮45」での連載をまとめたものだ。

 芸人が芸人を礼賛する忖度コラムが多い中、著者は実直に切り込んでいく。遠慮も迎合もしない。痛みを知る者だからこそ聞き出せる話もある。嫁が年商5億の実業家であるレイザーラモンHGには、ヒモ視される懸念をぶつけ、確実に笑いの的を外し、面白くないことが逆に面白いコウメ太夫には感服する著者。そして営業で確実な地位を築いたテツandトモの違和感の正体を突き止め、波田陽区の残念な本性を看破する。

 繊細でも大胆、ずうずうしさともろさを抱えた著者の筆致が芸人たちの真の姿を映し出すことに成功している。「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。今年の本屋大賞ノンフィクション本大賞にもノミネート。

 (新潮社 1300円+税)

「表参道のセレブ犬と カバーニャ要塞の野良犬」若林正恭著

 オードリーの自己評価が低そうなほうがつづった旅エッセー。こじれて面倒くさそうなタイトルだが、中身は「キューバ3泊5日独り旅」。旅慣れたバックパッカーでもなければ、失敗談をつづる爆笑奇譚でもない。日本で育ったひとりの芸人が、ある思考の束縛から逃れるために必要な旅だった、というテイだ。斎藤茂太賞受賞作で、審査員の椎名誠は「新しい旅文学の誕生」とまで評している。しかし、なぜキューバなのか。 

 今の日本は成果主義の競争社会で、勝っても負けても居心地が悪い、いつもどこかしらじらしい。そんな自分の悩みは全部、人がつくった社会のシステムの中でのことだと気づいた著者。そうではないシステムの国へ行ってみたい、と浮かんだのが、陽気な国民性と社会主義の国・キューバだった。革命博物館、ゲバラの邸宅、革命広場を巡り、葉巻をふかし、カリブ海で泳ぐ。

 何の変哲もない旅の終盤に、思いもよらぬ人物の登場で、著者の思いが深みを増して描写される。読後感は小説のような味わい。

 (KADOKAWA 1250円+税)

「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」小沢一敬著

 スピードワゴンの、芸風がナルシシストのほうが著者だ。スポーツ誌「Number」の連載コラムをまとめたもので、スポーツ漫画の名場面や名言にいかに感銘を受けたか、そそのかされたかを熱く語っていく。そして著者自身が得た教訓を名言風に囁いて締める。スポーツとまったく無関係なオチへとたどり着くこともしばしばだ。

 例えば「あしたのジョー」から生まれた囁きは「幸せってなんだろう」。「SLAM DUNK」からは「好きな女の子には期待しない」。野球漫画「ジャイアント」の一場面からは「最近、赤ちゃんになりたい」。頭上に「?」が浮かんだ人は、このトリッキーな発想転換の経緯を読んでほしい。もちろん、漫画に人生救われたというだけあって、漫画愛は伝わる。ただ、そんなに重くはない。主語は一貫して「小沢」。汗と涙と闘いを描くスポーツ漫画をすべて自分事に置き換えるメンタルの強さ。それこそが著者の持ち味であり、魅力であり、この本のおかしさでもある。

 (文藝春秋 1400円+税)

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