秋の夜長に読みたいミステリー本特集

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「鏡の背面」篠田節子著

 秋の夜長にミステリーはいかが。今回は、失業中の中年男、正体不明の聖母、異なる場所に存在するそれぞれの少女、名探偵の時計屋、巨大企業を標的とする買収屋が登場する5つの世界にご招待!



 薬物やアルコール依存、性暴力、DVなどによって心的被害を負った人々の社会復帰を目指す「新アグネス寮」で、ある夜、落雷による火災が起きた。入居者を逃がした末に逃げ遅れて亡くなったのは、この寮の代表を務める小野尚子とスタッフの榊原久乃……のはずだった。

 ところが遺体を調べた警察によれば、本人だったのは榊原だけで、もうひとつの遺体は小野尚子のものではなかった。亡くなる間際まで他の人を逃がし、焼け落ちた家屋とともに炎の中に姿を消した女はいったい誰なのか。かつて小野を取材したライターの山崎知佳は、その真相を探るのだが……。

「女たちのジハード」や「長女たち」など女性心理を描くのがうまい著者による最新作。薄いベールがはがれるように少しずつ真相が解き明かされてくる。

(集英社 2000円+税)

「シンドローム(上・下)」真山仁著

 企業買収のスペシャリスト・鷲津政彦は次の買収のターゲットを、絶対に損をしない構造を持つ電力業界にすることを決意する。

 鷲津が率いる投資ファンドのサムライ・キャピタル社は、国策会社としてスタートしながら民営化され業績も安定しているJエナジーの株の買い占めへと動きだした。そうした動きを察知した日本経団連会長兼首都電力会長である濱尾重臣は、東京地検特捜部のターゲットになっていることをちらつかせ、鷲津にあからさまな脅しをかけてきた。その直後、宮城県沖を震源とする震度7の大地震が発生。さらに津波によって、首都電力磐前第一原子力発電所で爆発事故が起こった。

 戦後最大の日本の危機に、鷲津はどう立ち向かうのか。人気のハゲタカシリーズ最新作。リアリティーのある展開に手に汗を握る。

(講談社 各1850円+税)

「監禁面接」ピエール・ルメートル著 橘明美訳

 主人公は、かつて企業の人事部長を務めていたアラン、57歳。リストラで職を追われ再就職試験を受け続けること4年、結果が得られないまま仕方なくアルバイトをする日々を送っている。そんな彼のもとに、ダメモトで送った会社から書類選考通過の知らせが届く。

 ところが、その会社の最終選考は、重役の危機管理能力を測るために人質拘束事件のシミュレーションを実行するというもの。妻の反対を振り切り、アランはあらゆる手段を使って情報収集し、その日に備えるのだが……。

「悲しみのイレーヌ」や「その女アレックス」で数々のミステリーの賞を総なめにしたフランスの人気作家の最新作。追い詰められた主人公の悲鳴が、紙面から聞こえてきそうな展開がすさまじい。一度読み始めたらやめられなくなること請け合いだ。

(文藝春秋 2000円+税)

「アリバイ崩し承ります」大山誠一郎著

 交番勤務から県警本部捜査1課に異動したばかりの新米刑事「僕」は、ある日、時計の電池交換のために偶然入った時計屋で「アリバイ崩し承ります」という貼り紙を見つけた。

 アリバイの根拠となるのは時間だから、時計屋こそがアリバイの問題を最もよく扱えるという店主・美谷時乃の不思議な主張に好奇心をそそられ、試しに今抱えている殺人事件のアリバイ崩しを依頼してみることに。すると驚いたことに、「僕」の話を聞き終わった店主は「時を戻すことができました。アリバイは崩れました」と、すぐにそのアリバイのカラクリを見抜いて、謎を解いてみせるのだった――。

「密室蒐集家」で第13回本格ミステリ大賞を受賞した著者による最新作。祖父からアリバイ崩しのノウハウを伝授されたという女性店主による、7つの謎解きが楽しめる。

(実業之日本社 1500円+税)

「ボーダレス」誉田哲也著

 姫川玲子シリーズなどの警察小説や、ホラーサスペンスの分野でも人気が高い著者による最新作。ここに描かれているのは、別の場所で並行して展開している少女たちの物語だ。

 夏休みの登校日に窓際の席でクラスメートがノートに何かを一心に書き続けていることに気づいた奈緒。夜中に父を襲った犯人から逃れるため森の中を歩く姉妹。音大入試に失敗して実家の喫茶店を手伝い始めた姉の琴音と妹の叶音の物語。年上の謎の女性に引かれる病弱な少女。

 読み進めるにつれて、一見何の関係もない彼女たちの4つの物語の境界線が薄れて交わっていき、最後に恐ろしいひとつの事件が発生する。各物語に置かれた伏線に注意して読みたい。青春ものも得意な著者らしく、読後感も悪くない。

(光文社 1500円+税)


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