著者のコラム一覧
江 弘毅編集集団「140B」取締役編集責任者

1958年、大阪・岸和田市生まれ。「ミーツ・リージョナル」の創刊に携わり12年間、編集長を務める。現在は編集集団「140B」の取締役編集責任者。神戸松蔭女子学院大学教授。著書に「『街的』ということ」「K氏の大阪弁ブンガク論」ほか多数。

「重ね地図で読み解く京都1000年の歴史」谷川彰英監修 

公開日: 更新日:

 大阪の小中高の遠足は、京都に行くことが多い。目的地の大抵は神社仏閣であり、代表的なところでは八坂神社や清水寺、銀閣寺といったところであるが、クラスの中の歴史好きが、歩きながらところどころで、ここぞとばかりに知識を披露して、「おまえ、よう知ってるのお」と称賛を得る。そんな記憶がたくさんある。

 この本は、もちろん大人向けだが、その少年の役割をする京都ガイドだ。

 鴨川を渡る現在の五条大橋のたもとに、弁慶と牛若丸の石像がある。けれども「京の五条の橋の上」の出会いは、この五条大橋ではなく、ずっと北に架かる現在の松原橋だった。数百年後に豊臣秀吉が新たに五条大橋を架けて、平安京から続く五条通の名を変えてしまったのだ。

 そういう話は、祇園のどこの割烹が星いくつで、錦市場の漬物屋でうまい店はどこだ、といった類いのスポットネタではない。だからこそ、この「重ね地図」が大いに役立つのだ。

 構成は「御所周辺」「東山」「京都駅周辺」「伏見・宇治」「とっておきの京都」とエリアで分け、「平安」「室町」「安土桃山」「幕末」「明治」と時代のハイライトをクロスさせる。

 京都守護松平容保がいた会津藩屋敷跡が現在の京都府庁であり、その東300メートル先に長州藩が京都御苑に攻め込んで激戦になった蛤御門があり、はりや柱には今も銃弾の痕が残っている。南へ1キロ足らずにある大政奉還の舞台となった二条城は、世界遺産に登録されている。

 長く都としての歴史を有す京都の町の、なにが変わってなにが変わっていないか。この本の地図を見て歩きながら説明を読むと、数々の歴史の大舞台をダイナミックに体験できるのだ。そのような「まち歩き」こそが京都観光の魅力であり、グルメやショッピングと同様に神社仏閣をスポットとして捉えてそこにアクセスするためのガイド本では不可能だ。

 持ち歩きに便利な変型新書判サイズも良い。

(宝島社 1100円+税)

【連載】上方風味 味な本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性