「ある男」平野啓一郎著

公開日: 更新日:

 九州・宮崎の小さな田舎町で文房具屋を営む里枝には、つらい過去があった。2歳の次男を脳腫瘍で失い、それが原因で夫とも離婚。長男を連れて、故郷に戻っていた。

 そんな里枝の前に、時折、スケッチブックと絵の具を買いに現れる男がいた。谷口大祐。林業に従事する作業員だった。寡黙で孤独の影があるが、純粋で素直な絵を描く大祐と、心に傷を抱えた里枝は引かれ合い、結婚する。そして女の子が生まれ、家族4人、つましいが幸せな家族を築いていった。 

 ところが、作業中の事故で、大祐は突然、命を落としてしまう。悲嘆にくれながら1年が過ぎ、絶縁したと聞かされていた大祐の実家に、その死を知らせたところ、信じられない事実が判明する。夫は谷口大祐ではなかった。

 では、彼は誰なのか。里枝は離婚裁判で世話になった弁護士、城戸章良を頼り、助けを求めた。ここまでが物語の発端。

 里枝の依頼を受けた城戸は、職業的関心を超えて、「ある男」捜しにのめり込んでいく。調査の過程で、自分の過去を上書きして別の人生を生きる男たちの存在を知った。

 嘘の上に築かれた愛は、本物ではないのか? 一体、愛に過去は必要なのだろうか?

 思索を深めていく城戸とともに、読者もまた自分の存在を見つめ直すことになる。根源的な問いをはらんだ文学作品。

(文藝春秋 1600円+税)

【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松村北斗&目黒蓮の"2強"を崩すSTARTO社の若手演技派は? 男性アイドル戦国時代のカオス

  2. 2

    森香澄はピアニストを夢見て練習に打ち込むも、1浪して東京女子大現代教養学部へ…高校は都立新宿

  3. 3

    森香澄には「あざとかわいい」にとどまらない「主役体質」の素質アリ

  4. 4

    キオクシア株は「高値の花」…2期連続過去最高決算で時価総額40兆円も、個人投資家比率わずか5%

  5. 5

    渋野日向子に「全米女子プロ」逆転出場の道…勝みなみと3年連続タッグでツアー唯一のダブルス戦V狙う

  1. 6

    生田斗真の活躍を見て育った弟・竜聖は川崎の公立中学から中大法→フジテレビへ

  2. 7

    佐々木朗希の選手会脱退が若手逸材に飛び火 「電通が動いているんじゃないか」と広がった疑心暗鬼

  3. 8

    ナショナルズ小笠原慎之介「巨人入り」のウラ…「メジャー昇格の芽なし」の悲しい現実

  4. 9

    「ペチュニア」と「キンギョソウ」が見頃を迎えた花と緑のテーマパーク「東京ドイツ村」入場券を5組10人にプレゼント

  5. 10

    高市事務所が選挙ネット戦略で手だれに接近のナゼ…中傷動画作成・拡散のキーマン松井健氏の“意外な実績”