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世界の名著ダイジェスト版特集

「世界恋愛文學全集」辛酸なめ子著

 今年の秋は「読書の秋」にしようと決意したものの、膨大な書物の中からコレという一冊を選ぶのは至難の業。何を読むべきか悩んでいるだけで、秋が終わってしまいそうだ。そこで今回は、恋愛小説から哲学書まで、さまざまな名著をダイジェスト的に紹介する文学案内5冊を取り上げるぞ。

 取り上げられるのは「恋愛指南」「蜻蛉日記」「好色五人女」「ヰタ・セクスアリス」「うたかたの日々」など40の不朽の名作だ。いずれも世界の文豪が記した恋の教科書でもある恋愛小説で、それらを人気コラムニストであり漫画家でもある著者がご紹介。

 江戸時代のリアルな恋愛ドラマを描いた井原西鶴の人気シリーズ「好色五人女」は、“好色”という軽いイメージとはかけ離れ、5話中4話が死別で終わるダークな物語だ。不義密通は極刑の時代に、背徳的な恋愛に身を焦がす女たちの姿が赤裸々に描かれている。

 フランスの詩人ジャン・コクトーによる「怖るべき子供たち」は、さすがアムールの国だけあって子供の恋愛とは思えない濃厚さだ。病弱な少年ポールが恋心を抱くのはガキ大将のダルジェロ、病に伏すポールの姿に興奮を隠しきれない少年ジェラール、そんなボーイズラブの三角関係をかき乱すのが、サディスティックなポールの姉エリザベート。子供だからこそ率直で残酷な感情は、やがて死すらも遊戯に変えて……というお話だ。

 秋の夜長、恋愛小説にどっぷりハマるのも悪くない。(祥伝社 1500円+税)

「定番すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」ドリヤス工場著

 夏目漱石の「坊っちゃん」や尾崎紅葉の「金色夜叉」、小林多喜二の「蟹工船」など、学生時代に教科書で少しだけかじった名作を、10ページ程度の漫画にまとめた本書。

 文学作品は、だいたいのあらすじは知っていても、しっかりとは読んでいないために結末が分からないという作品も多い。本書では、椅子の魅力に取りつかれた男の最後に驚かされる江戸川乱歩の「人間椅子」、アニメのラストシーンで有名なウィーダ作「フランダースの犬」の結末などが、漫画の1コマで分かりやすく描かれているのもいい。

 さらに本書で注目すべきは、その絵柄だ。どこから見ても、昨年亡くなった漫画家の水木しげる氏のそれ、そのものである。実は著者のドリヤス工場氏は、水木氏の絵柄をそっくりに描くことで有名な人物。あのどこか不気味で、かつとぼけた雰囲気漂う水木作品が蘇ったような懐かしさも感じることができるだろう。(リイド社 850円+税)

「文学ご馳走帖」野瀬泰申著

 文学作品に登場する食のシーンばかりを集め、作品が世に出た頃の時代相を読み解いていく。

 織田作之助の「夫婦善哉」には、主人公が父親の生業を説明する際、「蒟蒻、紅生姜、鯣など一銭天婦羅を揚げて……」というくだりがある。大正時代にはこれらの天ぷらが定番だったのだが、酒の肴に最適だったスルメの天ぷらは、今ではスルメが高価になったことで、さきイカに取って代わられ、コンニャクの天ぷらは揚げにくいからか廃れてしまった。しかし紅ショウガの天ぷらは近畿圏で今も生き残っており、梅酢に漬けたショウガを揚げたものが大衆食堂などで食べられる。

 夏目漱石の「三四郎」では、牛鍋屋に入った学生たちが煮る前の肉を壁に投げつけるシーンがある。これは、肉の判別法。明治初期には食肉偽装が横行していたことの表れだという。

 文学の一風変わった楽しみ方が味わえるが、読んでいると腹が減るので要注意だ。

(幻冬舎 780円+税)

「古書店のオヤジが教える 絶対面白い 世界の名著70冊」日比野敦著、阿刀田高監修

 いつか読まねばと思いつつ、なかなか手が出せない「古典」。時代を超えて読み継がれているのだから、そんじょそこらの書物よりも格段に面白いはずだ。とはいえ、膨大な数の古典を一冊ずつ読んでいくには時間が足りない。そこで本書は、選りすぐりの古典70冊を4~5ページのダイジェストで紹介。今の自分に必要な古典を選ぶためのガイド本としても役立つ。

 ローマ帝国の礎を築いたカエサルによる「ガリア戦記」は、リーダーシップの教科書としてお薦めだ。カエサルが攻め込んだガリアとの戦争の記録であるが、その語り口も視点もあくまで理性的で客観的。戦争を己の力を誇示する場ではなく、政治の延長として見事に描き切っている。リーダーとはいかにあるべきかの解答も示され、古書店店主である著者も史上唯一、政治家の手による名著であると絶賛している。

(三笠書房 650円+税)

「読まずに死ねない哲学名著50冊」平原卓著

 小難しいイメージの哲学書だが、豊かな人生や恋愛の意味など、実はシンプルな問題の解を追究するものだ。本書ではそんな哲学書の数々を、できうる限り噛み砕き、解きほぐしながら紹介している。

 フランスの哲学者ジョルジュ・バタイユは、エロチシズムの本質について解き明かしている。それは人間に固有であり、禁止を定めているルールを侵犯する際に生じるものと論じている。例えば、不倫に対するエロチシズムは、「婚姻という制度の一時的な侵犯」と「自己価値の下落に対する不安」と共にある。そして、女性が男性にとって欲望の対象となる鍵は“美”にあるという。とはいえ、美そのものにエロチシズムがあるわけではない。彼女たちの美しい顔や衣服が汚され、侵犯されたときに味わわれる喜びこそがエロチシズムだとしている。

 アリストテレスからサルトルまで、哲学の歴史的発展についてもチャート式で解説していく。(フォレスト出版 1200円+税)

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