倉阪鬼一郎(作家)

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2月×日 西崎憲著「全ロック史」(人文書院 3800円)を読了。5年半をかけた500ページ強の大著だからもっと時間がかかるかと思いきや、意外につるつると読むことができた。むかしプログレッシブ・ロックを少し聴いただけの門外漢だから、80年代以降のバンドはまったくわからないのだが、そういった初心者でも難なく読める。うるさ型が多いジャンルでこういう通史を書くのはドン・キホーテ的な勇気が必要だろうが、訳詞を随所にちりばめた仕上がりはしなやかだ。

 本書がツイッターで話題になると、「全××史」なら書いてみたいというツイートがいろいろ現れて楽しかった。私も「全昭和歌謡史」なら……いや、やっぱり無理だな。

2月×日 愛知県の犬山市で行われるマラソン大会に出場するつもりだったのだが、あいにく直前で風邪を引いてしまって断念。結局、仮装用の黒猫の着ぐるみを運んだだけで終わってしまった。帰京後は読書しながら静養につとめ、齋藤愼爾著「逸脱する批評」(コールサック社 1500円)を読了。副題は「寺山修司・埴谷雄高・中井英夫・吉本隆明たちの傍らで」、深夜叢書社社主として、あるいは俳句方面のエディターとして黒衣的活躍を続けてきた著者の文庫解説を集成した一書だ。鳥瞰的に観た通史もいいが、神は細部に宿り給う、こういった精彩ある断片の集積もまた楽しい。

2月×日 マラソンを断念したあとはせめて観光をと国宝犬山城に登った。この城は平成の途中まで個人の所有物で、最後の殿様になった成瀬正俊は俳人としても活躍した。そういった流れもあって、「今井杏太郎全句集」(KADOKAWA 4500円)を読む。旅行に出るときは毎日十句をノルマにしているのだが、そういう旅吟をさらさら詠む際に使えそうな文法が散見される。

 ただし、そういった縛りがないときにこんな句を詠めるかというと、これは至難の業だろう。よほどうまく力を抜かないと投げられない微妙な変化球のようだ。

鳥雲に入りぬそのあとの鳥もまた 杏太郎

【連載】週間読書日記

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