著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件」カーク・ウォレス・ジョンソン著 矢野真千子訳

公開日: 更新日:

 超面白ノンフィクションだ。大英自然史博物館から、珍しい鳥の標本が盗まれた実際の事件を、克明な調査を積み重ねて描きだすのだが、そのディテールが面白いので一気読みである。

 事件が起きたのは2009年だが、著者はなんと1848年から本書を始めている。アルフレッド・ラッセル・ウォレスが英国軍艦に乗ってアマゾン奥地に足を踏み入れるところから稿を起こすのである。4年間、アマゾン各地で集めた鳥の皮、卵、植物、魚、甲虫などの1万点に及ぶ標本が船の火事で燃える劇的なシーンが、本書の実質的なプロローグだが、ここを読むともうやめられない。

 ウォレスは帰国後、今度はマレー半島に出かけ、8年間もさまざまなものを採集する。それらの大半は大英自然史博物館にいまも所蔵されている、と現代につながっていくわけだが、盗難事件はまだ出てこない。次は、大英自然史博物館に寄贈してトリング分館となった博物館をつくった男、ロスチャイルド家の放蕩者ウォルター・ロスチャイルドの半生を紹介し、さらに羽飾りファッションがはやり、釣りの毛針に使われるなどして鳥の乱獲が横行したという歴史を語り、ようやく盗難事件の主役エドウィン・リストが登場する。

 最後は、トリング分館にはあまりに高価なものがほかにあり、それらが盗まれなかったのでリスト青年の盗難に博物館側がしばらく気付かなかったというのがダメ押しだ。

(化学同人 2800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」