「日本の『原風景』を読む」原剛著

公開日: 更新日:

 米沢平野の山沿いにある高畠町(山形県)は、土地の人々が「まほろばの里」と呼ぶ美しい町である。6月、田も人も生気に満ちる。満々と水をたたえた田、寺を分散させ、徐々に傾斜度を高めていく地形は、どこか懐かしさを感じる風景でもある。

 陰影に富む、山ひだの深い奥羽山脈につながるこの高畠町の里山の景観は、縄文・弥生時代に遡る農耕の記憶を呼び覚ます、まさに原風景なのだ――。

 人の心を育て、鍛え、挫折したときにはそこへ戻って立ち直ることができる、風土性豊かな自己形成の場、「原風景」を全国各地に訪ねたルポルタージュ。山岳に宿る神仏を感じる「山」、文化としての「野鳥」、原風景を貫流する「川」、「東日本大震災の現場」など6つのテーマから日本文化の基層、日本人の環境意識と自然観を映す場所を写真と共に紹介する。

 東日本大震災で失った風景になぜ人は心を痛めるのか。その土地が人と自然が織りなす歴史によって、ある考えや感じ方が濃厚に培われる「場所性」をはらんでいたから、との指摘が腑(ふ)に落ちる。

(藤原書店 2700円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  3. 3

    高市内閣の閣僚にスキャンダル連鎖の予兆…支持率絶好調ロケットスタートも不穏な空気

  4. 4

    葵わかなが卒業した日本女子体育大付属二階堂高校の凄さ 3人も“朝ドラヒロイン”を輩出

  5. 5

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    隠し子の養育費をケチって訴えられたドミニカ産の大物種馬

  3. 8

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 9

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!

  5. 10

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑