「発火点」C・J・ボックス著 野口百合子訳

公開日: 更新日:

 翻訳ミステリー事情に詳しい人なら、えっ、創元推理文庫なの? と思われるかもしれない。

 C・J・ボックスの猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズは、第1作からずっと講談社文庫で刊行されていたからだ。この作品から翻訳が創元推理文庫に移籍したのである。本書は、シリーズの第13作だが、この本のどこにもその巻数表記はない。大丈夫だ、このシリーズの面白さを信じよう。

 これまでのシリーズ諸作をまったく読んでこなかった人に、いきなり本書をすすめたい。翻訳の版元が変更したことを、読み始める契機にすればいいのだ。ここから読んで、これが面白ければ遡ればいい。翻訳ミステリーのシリーズもので、いまいちばん面白いのは、カリン・スローターのウィル・トレント・シリーズ(これはハーパーBOOKSから刊行)と、このジョー・ピケット・シリーズなのである。読まずにいるのはもったいない。

 2人の射殺死体が発見される冒頭から、クライマックスの森林火災(これが迫力満点だ。その原因にはぶっ飛ぶけれど)まで、一気読みの面白さである。

 本書でこのシリーズを初めて読む人がうらやましい。第1巻から読みはじめれば、そこには楽しさと興奮がぎっしりとつまっているからだ。次作の翻訳は2021年初夏なので、それまで1年。1巻ずつゆっくりと既刊本を読まれたい。読書の至福があなたを待っているはずだ。

(東京創元社 1300円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  3. 3

    高市内閣の閣僚にスキャンダル連鎖の予兆…支持率絶好調ロケットスタートも不穏な空気

  4. 4

    葵わかなが卒業した日本女子体育大付属二階堂高校の凄さ 3人も“朝ドラヒロイン”を輩出

  5. 5

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    隠し子の養育費をケチって訴えられたドミニカ産の大物種馬

  3. 8

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 9

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!

  5. 10

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑