吉川永青(作家)

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9月×日 7月に入稿した神武東征の物語について、版元のご意見を踏まえて改稿作業中。執筆の参考にした、長浜浩明著「古代日本『謎』の時代を解き明かす」(展転社 1780円+税)に改めて目を落とす。史学界では確実に否定されるだろう論理のオンパレードだが、とにかく面白い本だ。古代日本の歴史に「定説」はあれど、確定した「史実」は存在しない。ゆえに戯作者の私が戯作として書く以上、面白いと思う論は積極的に取り入れた。学者ではないのだから、それで良かろう、なのだ。

9月×日 改稿作業を終えて息抜き。腹筋運動の補助器具でエクササイズをしながら高野裕也著「魔物たちは片付けられない」第4巻(スクウェア・エニックス 618円+税)で頭を休めた。ファンタジーのコメディー漫画で、6月に刊行された4巻は最終巻である。諸々の問題を掃除で解決していくという着眼点には敬服した。漫画ならではの「馬鹿馬鹿しい」はあれど、それとて誉め言葉だ。しっとりと心を揺さぶってくれる物語には大いに癒される。ともすれば漫画は小説その他よりも低く見られがちだが、残念なことではないか。物語を紡ぐという行為は小説も漫画も変わらないはずである。しかも文章なら何十字、何行と使うところ、漫画なら絵とわずかな台詞で表せるのだ。違うのは表現の形態のみ、極めて優秀なメディアと言えよう。

10月×日 ようやく暑さも落ち着いてきたので、久しぶりに家内と散歩に出る。ついでに煙草を買ったのだが、思い出した、今月から値上げだった。法で認められた嗜好品に、こうまで重税を課すのは如何なものだろう。そう言えば「もうすぐ絶滅するという煙草について」(キノブックス 1500円+税)という本があった。42人の執筆者による煙草エッセー集だが、執筆者は愛煙家だけに留まらない。多角的な視点と意見が集まっているため、フラットな感覚でそれぞれの言い分に触れられる1冊だ。喫煙者にも嫌煙者にも一度読んでもらいたいな、などと思った。

【連載】週間読書日記

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