「臨場」横山秀夫著

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 検死と検視、よく似た言葉だが、どう違うのか。検死は法律用語ではなく、検視と検案、解剖の3つを包括した言葉。一方の検視は死因が犯罪によるものか否かを警察が判断するために遺体の状況を見ることで、本来は検察官が行うとされているが、警察官による代行も認められている。

 それを行うのが検視官で、刑事経験を10年以上、または殺人事件の捜査を4年以上経験し、警察大学校で法医学を修了している警視・警部が任官する。医師ではないが専門的な法医学を学んでおり、事件現場では法医学者と検視官双方の協力が必要となる。

【あらすじ】本書の主人公はL県警刑事部捜査1課調査官の倉石。L医大法医学教室の教授からも絶大なる信頼を寄せられ、鑑識一筋で「終身検視官」なる異名を持つが、その無頼ぶりで上からは厄介者扱いされている。それでも死体の目利きは歴代検視官の中でずぬけており、倉石を師と仰ぐ鑑識課員も多い。

 一ノ瀬警部も倉石学校の生徒のひとり。臨場の要請を受けた一ノ瀬は、遺体で見つかったのが、かつて付き合っていた、ゆかりだと知り驚く。もし殺人であれば同僚たちの捜査で、不倫関係にあった一ノ瀬の名前があぶり出されてしまう。どうか自殺であってくれと、倉石と一緒に現場へ向かう。状況は明らかに自殺で、警察医の見立てもそうなるだろうと安心した一ノ瀬だったが、倉石の見立ては違った――。

【読みどころ】法医学者の検視と倉石との大きな違いは、検死が遺体の細部を見るのに対して、倉石はひたすら現場にこだわること。常人離れしたその観察眼は現場をメスで切り裂いていくように鋭く、隠れている真実を浮かび上がらせる。内野聖陽主演でTVドラマ化されている。 <石>

(光文社649円)

【連載】文庫で読む 医療小説

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