「絶望死」ニコラス・D・クリストフほか著 村田綾子訳

公開日: 更新日:

 世界を圧倒し続けてきたアメリカ経済。しかし、大学の学位を取得していない大半の人の賃金中央値は、1979年から大幅に下がっている。本書では、「ニューヨーク・タイムズ」紙の特派員としてピュリツァー賞を2度も受賞した著者らが、“大国・アメリカ”で貧困にあえぐ労働者階級の実態をリポート。激しい格差と分断を明らかにしている。

 アメリカ人は愛国心が強く、祖国が豊かさとチャンスに満ちていると信じたがるが、その自信は思い込みでしかない。例えば、アメリカでは毎年約6万8000人が薬物の過剰摂取で命を落とし、4万7000人が自殺している。そしてほとんどの先進国で平均寿命は延びているのに、アメリカでは3年連続で短くなっている。

 本書では、著者のひとりが育ちアメリカの労働者階級の課題が凝縮されたようなオレゴン州ヤルヒムにもスポットを当てている。同じスクールバスで通学した同級生たちは今、薬物やアルコール、病気、無謀な事故、そして自殺などにより、4人に1人がこの世を去っているという。これらの事実を突きつけても、ごくわずかな富裕層は首をすくめるだけで、むしろ犠牲者を非難する。

 アメリカの労働者階級の苦しみは避けられないものではなかったはずだが、政府は労働者よりも資本の側につくことが多すぎた。そして組合を弱体化させ、低熟練労働者の賃金は強力に下げてきた。とても先進国のものとは思えない話の連続だが、富裕層の資産が天井知らずに増えていく一方で、驚くほど多くの人が見捨てられているアメリカの実態は、日本の近い未来とも重なる。

 労働者階級の“絶望死”は、決して他人事ではない。

(朝日新聞出版 2200円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  2. 2

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  3. 3

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  4. 4

    片山さつき財務相の居直り開催を逆手に…高市首相「大臣規範」見直しで“パーティー解禁”の支離滅裂

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  1. 6

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  2. 7

    森田望智は苦節15年の苦労人 “ワキ毛の女王”経てブレーク…アラサーで「朝ドラ女優」抜擢のワケ

  3. 8

    臨時国会きょう閉会…維新「改革のセンターピン」定数削減頓挫、連立の“絶対条件”総崩れで手柄ゼロ

  4. 9

    阪神・佐藤輝明をドジャースが「囲い込み」か…山本由伸や朗希と関係深い広告代理店の影も見え隠れ

  5. 10

    阪神・才木浩人が今オフメジャー行きに球団「NO」で…佐藤輝明の来オフ米挑戦に大きな暗雲