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「宗教と過激思想」藤原聖子著

 かつて明るい未来になるものと信じられていた21世紀。しかし現実の21世紀は、世界中に狂信の嵐が吹き荒れる時代だった!



 東大教授の著者が学生たちに「過激派の対語は?」と聞いたところ、若者は誰も答えられず、50代の社会人学生だけが「穏健派ですよね」とかろうじて答えたという。「イスラム過激派」などの呼び名を一方的に聞かされ続けたあげく、その内容も理解しないまま「イスラムはみな過激」といった偏見に陥っているのだ。

 それに対して本書はイスラムに限らず、キリスト教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教、そして神道などの中で「過激」とされた宗教思想を取り上げて論じる。キング牧師と違って暴力路線を唱えたマルコムXや「一人一殺」の井上日召のほか、アルカイダやISの源流ともいわれるサイイド・クトゥブ、人種を超えた博愛主義を唱えて反奴隷制のために立ち上がったジョン・ブラウンら、さまざまな「過激思想」の具体例をわかりやすく解説している。読み進むうち、果たして何が「過激=激し過ぎる」のか、と疑問にとらわれることもありそうだ。

 終章を「過激派と異端はどう違うか」という議論で締めくくっているのもいい。異端はある宗教の中で、その宗教の本来の姿を追求するところから生まれる。一方、現代の宗教的過激思想は総じて「世直し」を志向するのだ。

(中央公論新社 946円)

「タリバン 復権の真実」中田考著

 アフガニスタンの首都カブールの陥落は世界中にショックを与えた。政府軍の抵抗もなく、意気揚々と首都に乗り込んだのがタリバン。しかし日本を含め、世界中にタリバンの幹部と個人的に親交を持ち、実態を知る者はほとんどいない。異色のイスラム法学者として知られる著者はその少数のひとり。

 かつてアフガンに何度も渡航し、第1次タリバン政権の元外相やパキスタン大使らと信頼関係を築き、タリバン代表部にも訪問したという。タリバンの思想に深くなじみ、その人脈とも関わりを持つ著者は、欧米メディアから「狂信」の集団と見なされるタリバンの立場や論理がどのようなものかをくわしく説明する。新書ながらも重量級の問題提起をふくんだ注目の本。

(KKベストセラーズ 990円)

「中国『国恥地図』の謎を解く」譚璐美(タン ロミ)著

 中国には「国恥地図」があるという。過去100年間に戦争で外国に奪われた領土を色分けした地図で、もとは戦前の中華民国時代に作られたらしい。中国人の父と日本人の母のもとに東京で生まれ、幼い頃から香港や台湾と行き来して育った著者ですら知らなかった、荒唐無稽で独善的な地図。

 しかし近年の中国はまさにこの世界観を本気で信じ、「外国に侵略された」中国を回復しようとしているようだと著者はいう。

 ノンフィクション作家として戦前の中国で使われていた小学校教科書を所有していた著者は、その口絵に「中華国恥図」があるのを見つける。それを見ると現在の中国はむろん、南はインドシナ半島からマレーシア、シンガポールまで、西はネパールを越えてアフガニスタンまで、北はモンゴルはむろんカザフスタンの大半までが含まれるというもの。

 歴史をたどり、現在の中国の政局をにらみながら中国の野望と狂信を解き明かす。

(新潮社 968円)

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