ニッポンの防衛

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「米中の狭間を生き抜く」猿田佐世編著

 中国の存在感と対中警戒網の緊張が高まるにつれ、日本の防衛と安全保障への関心が高まっている。



 ワシントンで長年ロビー活動に従事した本書の編著者。

 対米追従一辺倒の日本外交を少しでも軌道修正すべく活動する「新外交イニシアティブ」の代表となった著者はフィリピンの安全保障策に注目する。

 横暴で「ミニ・トランプ」の異名を持つドゥテルテ大統領のイメージはよくない。公約に掲げた「麻薬撲滅戦争」も犠牲者は2万7000人以上と報告されている。しかしベトナム戦争中に東南アジア最大の米海軍の拠点だったスービック湾の海軍基地は、2020年、フィリピン政府がアメリカに地位協定の破棄を通告したことで閉鎖となった。

 昨年7月には、新型コロナ禍対策や対中警戒網の強化の関連などで完全破棄は延期されたが、かつては基地貸与国という受動的立場だったフィリピンはアメリカと対等に渡り合う当事国となったのだ。

 そのフィリピンに対する最大の援助供与国が日本。しかも外交の中心は一貫してアメリカと日比の共通点は多い。最近でも豪、ニュージーランドなどと対中包囲網を急ぐ米国に対し、フィリピンを含むASEAN諸国ははざまにある立場を重視せよと反発し、“Don't make us choose.”(米・中どちらかを選ばせるな)を合言葉に対米一辺倒を拒んでいる。

 沖縄の屈辱的な地位協定をいつまでも解決できない日本政府こそ、フィリピンの知恵に学ぶべきだろう。

(かもがわ出版 1430円)

「日本社会は自衛隊をどうみているか」ミリタリー・カルチャー研究会著

 災害時の支援活動などでは自衛隊の存在感も国民からの好感度も高いが、国家防衛の話になると、とたんに関心が減衰する。本書は「市民の戦争観・平和観を中核とした、戦争や軍事組織に関するさまざまな文化の総体」をミリタリー・カルチャーと定義する、歴史学者や社会学者らの研究会による継続的な研究の一環。

 本書は自衛隊に対する国民の意識やイメージを各種のアンケートで調べた報告書だが、「自衛隊への関心・印象」を尋ねた調査では、50歳以上の各世代ともおよそ7割以上が「非常に」または「ある程度」関心があるというのに対して、29歳以下では4割にも満たず、30代でも半分を維持するのがやっとという状態。

 戦争・災害、徴兵の可能性を思えば若い世代こそ当事者のはずだが、これも内向き志向の反映だろうか。

(青弓社 3300円)

「防衛外交とは何か」渡部恒雄、西田一平太編

「防衛外交」とは「軍事アセット(資産)を協調的な活動に用いる外交」。冷戦終結後の1990年代に活発になり、有志連合や国際PKO活動などでそれまで接触のなかった国々の軍隊が行動をともにする機会が増えたことで注目を浴びた。

 本書は自衛隊OBを含む計13人による総合的な防衛外交論。陸海空各自衛隊の実例などをまじえ、日本と世界の具体的状況を網羅している。もともと敵の効率的な粉砕のための組織だった米軍は9.11以来の対テロ戦争の長期化で、機能不全のアフガニスタンとテロリストの後方支援地だったパキスタンを見捨てるという過ちでみずから苦境を呼ぶことになった。

 他方、中国では習近平体制から軍事外交を強化し、人民解放軍は軍高官に年に1回は相手国を訪問すること、また同じ外国軍の高官を2回は応対しないなどの決まりを細かく決めているという。後者はおそらく個人的な情実が入る余地を排除するためだろう。

 日本にも体系的な防衛外交が必要と本書は説くが、日本の防衛予算は減額続きで防衛産業から撤退する日本企業が相次いでいるのが実情だ。

(勁草書房 4400円)

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