令和ジャズ・ブーム

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「ジャズシーン」エリック・ホブズボーム著 諸岡敏行訳

 コロナ禍でのアナログレコード人気も手伝って、中高年から若者にまでジャズの人気が急上昇中だ。



 左派の知識人として世界的に著名なイギリスの歴史家が、実はプロはだしのジャズ評論家でもあった。本書はその評論集だ。

「ジャズは20世紀の突出した文化現象」と書く著者はいとこの影響で少年時代にジャズに魅せられ、大学で教えるようになってからも休みにはロンドンのジャズクラブに入りびたって、間近でステージに触れてきたという。クラブの利点はステージを終えたミュージシャンとお近づきになる機会があること。これでまだ有名になる前の若手と仲良くなり、単なるファンやジャーナリストでは聞けないことまで知る友人になった。

 ビートルズが流行する前の、ジャズに熱狂した時代のロンドンっ子だけにプレスリーやビートルズの人気は長続きしないと書いて「あとで恥をかいた」とも率直に認める。ビッグバンドの時代が終わってビバップからモダンジャズ、フリージャズへと「進化」したジャズだが、フリージャズの時代は大衆から遊離したと感じたとも書いている。

 1960年代に書かれた評論を中心に80年代に再刊された際のエッセーなども含まれ、時流の中で変化したジャズとファンの関係にも行き届いた目配りがされている。

(績文堂出版 4620円)

「『最高の音』を探して」ダン・ウーレット著 丸山京子訳

 かつてマイルス・デイビスのグループの錨(アンカー)として活躍し、日本でも人気の高いジャズ・ベーシスト、ロン・カーター。そのインタビューをまじえた評伝。

 1937年に自動車産業で有名なデトロイトの衛星都市に生まれたカーターは音楽学校でチェロを弾いて優秀な成績を収めるが、黒人のクラシック奏者のいない時代。生活のためもあってジャズの道に進む。

 正規の音楽教育を受けた人材のまれな世界で活躍の余地は広く、63年からはマイルスのグループで名を上げた。190センチの長身と正確な音程は耳の肥えた日本でもファンを引きつけ、本国にはない数十枚のディストリビュート盤が日本で発売されているほか、紳士服やコーヒーのCM出演も多い。

 ジャズ界最高のレジェンドの素顔に触れる最良の一冊。

(シンコー・ミュージック・エンタテイメント 3960円)

「インディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ」尾川雄介、塚本謙著

 70年代のジャズは難解な「フリージャズ」だといわれがちだが、ジャズ史の上では重要な表現。本書はその世界に通じた2人の音楽評論家が妥協なく紹介した貴重なレコードガイドだ。

 ストラータ・イースト、ブラック・ジャズ・レコーズ、トライブ・レコーズ、ニンバスら米国内の独立系レーベルを細かく紹介し、また日本やヨーロッパ各国のレーベルまで視野に収める。スタンリー・カウエルやクリフォード・ジョーダンらのアルバムが1枚ずつていねいに解説付きで紹介され、各レーベルの創立者や代表的なミュージシャンらへのインタビューもある。

 70年代に日本からニューヨークに渡り、インディーズの「ホワイノット」を主宰した悠雅彦へのインタビューもうれしい。出版は14年だが、マニアックな誠実さはいまもひときわ抜きんでている。

(リットーミュージック3080円)

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