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「戦争という選択」関口高史著

 今年は真珠湾攻撃から80周年。改めて「開戦」という選択が何だったのかを振り返るときだ。



 戦争の前、陸軍が主導した日独伊三国同盟に対して海軍が反対だったことはよく知られている。海軍大将から首相になった米内光政内閣についても、昭和天皇は総辞職を惜しんだという。それなのに、なぜ無謀な開戦に踏み切ったのか。

 著者は防衛大学で安全保障学を修めて母校で教壇に立った専門家だが、防大の学生たちが「なぜ戦争をしたのか習っていない」ことに驚いたという。また中国出張の際、普通の通勤客らが、新聞や雑誌で軍事や安全保障の記事を熱心に読んでいる姿をよく見かけたことにも驚いた。戦争や軍事に無関心で、アメリカの傘の下を自明視する日本人に危機感を抱いたわけだ。

「国民と政府の意思が乖離した一方的な安全保障は極めて脆弱」「太平洋戦争と同じ失敗を繰り返さないことが大事」と著者はいう。ドイツとの同盟に反対だった山本五十六は、三国同盟を結べば英米の支配圏からの調達を想定した従来の物資補給計画は無効になるが、どうするつもりかと尋ねたが、陸軍に押し切られた海軍上層部は、誰もまともに返答しなかったという。海軍=国際派というのは単なる神話。実態は事なかれ主義の官僚主義の巣窟だったということである。まさに現代に通じる寓話だ。

(作品社 2970円)

「開戦と新聞」後藤基治著

 80年前、対米戦争に踏み切った日本の動きをスクープしたのが「東京日日新聞」、毎日新聞の東京版だ。著者はこの時の立役者。戦前戦中に大阪の毎日新聞に入社し、社会部記者から海軍担当になった人の回想記だ。

 日中事変の翌年から従軍取材にたずさわり、戦後は評論家として名を成す大宅壮一らと同僚だった。開戦直前には元首相で対米戦争反対派だった米内光政海軍大将の自邸を訪ねて「やるんですか」といきなり聞いたという。その迫真のやりとりをまじえて開戦時の軍の動きが手に取るようにわかる。

 4年前に出た「海軍乙事件を追う」の再編集版で、巻末に戦中の提督たちの座談会が付してある。

(毎日ワンズ 1210円)

「東久邇宮の太平洋戦争と戦後」伊藤之雄著

 東久邇宮稔彦。明治20年生まれ。陸軍士官学校と陸軍大学を出てフランス留学した陸軍大将だが、対米戦争には反対の和平派として知られたことから、真珠湾の直前には近衛内閣の後継首相の声もあった。

 日本の敗戦後、終戦処理内閣として総理大臣に就任したが、GHQと対立して史上最短の54日間で総辞職。その後、「やんちゃ孤独」「東久邇日記」などを出版して、リベラルで「平民的」な皇族というイメージが定着した。

 だが、京大名誉教授の著者は、長年の研究の末に、このイメージはつくられたものだという。実際の東久邇宮は「プライドは高いが、かなり身勝手で精神的にももろい人物」「リベラルな発言をすることもあるが」「確固とした外交・内政観を持っていない」という。本書はそれを実証した2冊目の研究書。

 日記やその他の資料を子細に読み込み、対米戦争を回避すべしと考えていたのは事実としても、それを実現するための周到さや自身の節制と努力などには欠けた人物だったとする。結局、真珠湾は阻止できなかったのだ。

(ミネルヴァ書房 7150円)

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