「東京彰義伝」吉森大祐著

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 時は明治15年。明治維新から時がたち、功績のあった者たちに報告書を提出するようにという政府からの指示に対して、勝海舟は江戸開城の交渉事はすべて自らが判断指示したことだという報告書を提出していた。

 このままではすべてが勝海舟の手柄になってしまうと焦る香川善治郎は、師匠の山岡鉄舟に急いで自らの働きを報告すべきだと進言したものの、手柄にこだわらない鉄舟は香川の言葉に取り合わない。

 仕方なく書面の代筆を願い出た香川は、鉄舟になぜ江戸が東京になったのかを知るためには「この町そのものである女」といわれる佐絵という女の話を聞くとよいといわれ、佐絵に会いに行く。実は、下町の湯屋「越前屋」の娘である佐絵は、上野寛永寺の輪王寺宮と深い絆があった……。

幕末ダウンタウン」で第12回小説現代長編新人賞を受賞して以来、独自の視点で歴史に光を当てる著者の最新作。本書は、讃岐出身で当時の事情を知らない香川の視点から、江戸城無血開城時に勃発した上野戦争の際に、彰義隊の旗頭になった輪王寺宮の真実に迫っていく。江戸庶民を愛し愛された輪王寺宮が印象的だ。

(講談社 1980円)

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