「奇病庭園」川野芽生著

公開日: 更新日:

「奇病庭園」川野芽生著

 文書館の地下房で暮らしている極貧の写字生は、通信局長の部屋で持ち出し厳禁の重要な手紙を書き写す仕事をしていた。ほかの者が帰った後、ひとり残って仕事をしていたとき、ペン先を腕に刺してしまい、引き抜いた拍子に血が混じったインクが飛んで、局長が大切にしていた美しい「有角老人頭部」に降りかかった。その染みは見る間に消えたのだが、そのとき、「どうせなら、内側に血を垂らしてほしい」というかすかな声が聞こえた。

 写字生が「頭部」の内側の深紅の結晶質に血を垂らすと、「わたしの思考はすっかり結晶化してしまったが、あんたが液体を注いでくれたから少しは考えも動くことができる」と「頭部」が言った。

 翼を生やした妊婦など、奇妙な登場人物たちが繰り広げる幻想的な長編小説。

(文藝春秋 2200円)

【連載】今日の新刊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  3. 3

    悠仁さまのお立場を危うくしかねない“筑波のプーチン”の存在…14年間も国立大トップに君臨

  4. 4

    田中将大ほぼ“セルフ戦力外”で独立リーグが虎視眈々!素行不良選手を受け入れる懐、NPB復帰の環境も万全

  5. 5

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  1. 6

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  2. 7

    結局「光る君へ」の“勝利”で終わった? 新たな大河ファンを獲得した吉高由里子の評価はうなぎ上り

  3. 8

    飯島愛さん謎の孤独死から15年…関係者が明かした体調不良と、“暗躍した男性”の存在

  4. 9

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  5. 10

    中日FA福谷浩司に“滑り止め特需”!ヤクルトはソフトB石川にフラれ即乗り換え、巨人とロッテも続くか