「芸能界とヤクザ」鈴木智彦+伊藤博敏+常田 裕ほか/宝島SUGOI文庫

公開日: 更新日:

「芸能界とヤクザ」鈴木智彦+伊藤博敏+常田 裕ほか

 ジャニーズ事務所の「性加害」問題が頂点に達した9月中旬、書店でこのタイトルが目に入った。結論から言うと本書にジャニーズは出てこない。反社会勢力と芸能界・スポーツ界の関係性を複数の著者が記すが、これがめっぽう面白い。

 本書は元々2019年、宮迫博之らがかかわった「闇営業問題」の直後に出版された本の文庫版である。なぜ芸能人が反社会勢力と接点を持つのかについて、つまびらかに解説する。冒頭では吉本興業とヤクザの長く続いた関係の歴史が振り返られ、不可解だった株式の非上場化は縁を切るために必要だったと解説される。

 芸能界とヤクザの関係性は元々は興行を打つために、その力が必要だったという側面がある。しかしながら、銀幕のスターや最近の芸能人は、自らの欲望と保身のためにヤクザに近づいていたというのが複数著者の一致した解釈だ。借金トラブルの解決や、小遣い稼ぎなどのために芸能人の方からすり寄っていくが、社会の空気がコンプライアンス重視になると離れていく。

 山口組二次団体の後藤組が2008年に盛大なゴルフコンペを開催した際、細川たかし、小林旭、中条きよしらが参加していたことが週刊新潮に報じられた。この年、彼らは紅白歌合戦に出演できず。この件に限らず芸能人は、メディアに“黒い交際”が報じられると途端に「反社会的な人とは思わなかった」「たまたま居合わせただけ」などと、その関係性について口を濁す。こんな記述もあった。

〈後藤元組長に近い元暴力団が呆れ声で言う。「芸能人たちは所詮、そんなモンですよ。後見人になってくれと調子のいいことを言って、さらには小遣いまでもらって、それが問題化しそうになると『プライベートな付き合いは一切ありません』と手のひら返しをする。『ヤクザと友達関係で何が悪い』と言い放ったのは、小林旭くらいのもんです」〉

 登場人物は錚々たるメンツだ。ビートたけし、高倉健、美空ひばり、ASKA、カラテカ入江などなど。「薬物で捕まった俳優のT」や「Tの妻だった女優」など伏せ字の人物も登場するが、これらが誰か分かった場合、「あぁ、やっぱそうだったのか……」とスッキリするかもしれない。

 ただ、困ってしまうのが、登場するヤクザやその周辺の人の実名が出てくるため、ネット検索で顔を見たくなる衝動に駆られ過ぎるのである。しかし、そのたびに読書を止めるのもイヤだというジレンマに陥る本である。

 ★★★(選者・中川淳一郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本中学生新聞が見た参院選 「参政党は『ネオナチ政党』。取材拒否されたけど注視していきます」

  2. 2

    松下洸平結婚で「母の異変」の報告続出!「大号泣」に「家事をする気力消失」まで

  3. 3

    松下洸平“電撃婚”にファンから「きっとお相手はプロ彼女」の怨嗟…西島秀俊の結婚時にも多用されたワード

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    俺が監督になったら茶髪とヒゲを「禁止」したい根拠…立浪和義のやり方には思うところもある

  1. 6

    (1)広報と報道の違いがわからない人たち…民主主義の大原則を脅かす「記者排除」3年前にも

  2. 7

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  3. 8

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  4. 9

    自民党「石破おろし」の裏で暗躍する重鎮たち…両院議員懇談会は大荒れ必至、党内には冷ややかな声も

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」