どうなる?総統選挙 台湾の今と未来を探る特集

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「台湾の本音」野嶋剛著

 いよいよ明日に迫った台湾総統選挙。その結果は日本の将来にも大きな影響を与える。今回は隣国・台湾について考える本をご紹介。

  ◇  ◇  ◇

「台湾の本音」野嶋剛著

 台湾を「親日」と呼ぶのは間違いなのか。朝日新聞でかつて台北支局長をつとめた著者は、そう言い切るには複雑な事情があるとして「ハンバーガー構造」になぞらえる。

 日本植民地時代の記憶を持つ高齢世代と、日本のサブカルチャーに親しんで好感を持つ若年世代が上下のパンになり、あいだに「抗日教育」を受けた壮年世代がはさまれる。そういう構造が10年ほど前まであった。いまはかつての若者が上の年代に移行してきたことで構造がさらに変わりつつあるというわけだ。

 日本とは社会問題でも共通点が多い。そのひとつが少子高齢化。日本の特殊出生率が1.34に対して、台湾は2020年に1を切ったという。日本より深刻なのだ。他方で孤独死は日本よりも少ない。儒教道徳は日本よりも強く根付き、仕事より家族を大事にするのは当然という気風があるからだ。

 著者の個人的な体験談も多い。

(光文社 946円)

「台湾有事日本の選択」田岡俊次著

「台湾有事日本の選択」田岡俊次著

 台湾といえば誰しも気になるのが「有事」。中国が強引に台湾に乗り込んだとしたらアメリカが黙ってはいない。しかし、いきなり米軍が表に立つと第3次世界大戦になりかねない。そこで日本が積極対応を迫られるのは火を見るより明らかだ。

 そもそも1972年、日中国交回復を果たした田中内閣の「日中共同宣言」によって日本は中華人民共和国が唯一の合法的な政権だと認めた。ゆえに仮に中国が台湾侵攻しても、それは内戦であるとして日本は不可侵でいるほかないはずだ。

 しかし今、日本は防衛費を倍増し、アメリカ製の最新兵器を買いあさり、米韓との共同軍事演習にも前のめり。サイバー防衛は確かに必要だが、27年を目標にサイバー関連部隊を4000人に拡充するというのは果たして可能なのか。

 著者は朝日新聞で長年、軍事記者として知られた人だけに、「安全保障の要諦はなるべく敵をつくらず、戦争を避けることにある」との指摘には大きな説得力がある。

(朝日新聞出版 869円)

「台湾のアイデンティティ」家永真幸著

「台湾のアイデンティティ」家永真幸著

 日本の台湾評価は高い。近年は特にそうだ。中国への警戒感が高まるにつれ、“親日台湾”のイメージで台湾への好感度は高まるばかり。しかし著者は、親日は「反中の裏返し」ではない、そんな単純化はかえってためにならないという。台湾を考えるとき、「中国との距離感」だけで判断するのは早計。台湾は毛沢東に敗れた蒋介石率いる国民党が乗りこんで中華民国とした。彼らは共産党から大陸を奪還し、中国統一を果たすと考えていた。それゆえ反共はもとより、台湾独立を主張する声にも徹底的な弾圧を加えたのだ。

 ここから台湾史上の汚点となる「白色テロ」の時代が始まった。とりわけ1968年には新進気鋭の作家が逮捕投獄される「民主台湾聯盟事件」が起こる。逮捕された陳映真はのちにこれを著書にまとめたが、それを原作にヒットしたゲームと映画は強い批判も浴びた。

 現代台湾政治研究が専門の著者はこの顛末を詳述し、台湾アイデンティティーをめぐる現代の複雑な事情を明らかにしている。

(文藝春秋 1210円)

「なぜ中国は台湾を併合できないのか」福島香織著

「なぜ中国は台湾を併合できないのか」福島香織著

 著者は元産経新聞記者の中国ウオッチャー。産経なら反中親台は当たり前で独立派の蔡英文政権にも好意的かと思ったら、実は産経はなぜか蔡には手厳しい。著者は2012年に蔡英文が民進党の統一候補として出馬した総統選挙を取材し、「民進党らしい手づくり選挙」で「与党国民党によく食らいついた」と高評価を下しているが、政権に就くと中国に妥協的な姿勢や、労働基本法の改正で中小企業や労働者から批判が出るなど評判は決してよくなかったという。それが20年の選挙で大ブームを巻き起こしたのは、ひとえに香港での騒乱と中国からの強烈な圧力を目の当たりにした人々の反発と不安のおかげだった。

 本書によれば、台湾には台湾ナショナリズムと台湾アイデンティティーがある。前者は中華民国を中国の正統国家とする中華ナショナリズムに対抗し、独立した台湾を夢見た1960年代世代の意識。後者は現代の台湾に強く、みずからを「タイワニーズ」と名乗る意識だ。これが中国への併合を許さない現代の台湾の核心なのだ。

(PHP研究所 1870円)

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