「西洋の鍵」ジャン=ヨーゼフ・ブルンナー著 いぶきけい訳

公開日: 更新日:

「西洋の鍵」ジャン=ヨーゼフ・ブルンナー著 いぶきけい訳

 外出時に必ず持ち歩いた自宅の鍵でさえ、スマホが代用してくれる時代。ありとあらゆるものがパスワード化して、「鍵」はその役目を終えつつある。

 現代の実用一辺倒の鍵とは異なり、かつて鍵は階級と権力を象徴する性質も兼ね備えていた。

 その歴史は、古代オリエントに始まると推定されている。今から3800年前のメソポタミア文明の黄金時代、ハンムラビ王の治世の粘土板に鍵に関する記述があるという。

 以降、4000年に及ぶ鍵の変遷を紹介しながら、その機能性とデザインの魅力を伝えるビジュアルブック。

 現存する最古の鍵のひとつは古代ギリシャの神殿の鍵だ。米国ボストン美術館が所蔵するアルカディア・ルーソイのアルテミス神殿の鍵は、紀元前5世紀の青銅製。長さ40.5センチという大きなもので、あまりの大きさに司祭や巫女は肩にかついで運ばなければならなかったそうだ。持ち手には碑文が刻まれ、その先端には蛇の頭を模した装飾が施されている。

 ローマ時代になると、錠前のメカニズムも木製ボルトから金属製ボルトとなり、金属細工の技術も進み、鍵の美しさは百花繚乱の時代を迎える。

 用途によって、スライド式のボルトに対応して縦横に動かす鍵から、現在の南京錠のように回転させる鍵、さらに平たいプレートに幾何学模様の透かしが入った鍵など、タイプや大きさ、装飾までさまざま。この時代には指輪型の鍵も登場する。

 以降、17世紀末から18世紀初頭にかけて作られた彫刻のように美しい細工が施された英国の鍵などを経て現在に至るまで。その歴史を概観。

 西洋の鍵文化の奥深さに触れながら、どんなモノ、場所を守るための鍵だったのか想像が広がる。

(グラフィック社 2970円)

【連載】発掘おもしろ図鑑

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  3. 3

    前田健太は巨人入りが最有力か…古巣広島は早期撤退、「夫人の意向」と「本拠地の相性」がカギ

  4. 4

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  5. 5

    来春WBCは日本人メジャー選手壊滅危機…ダル出場絶望、大谷&山本は参加不透明で“スカスカ侍J”に現実味

  1. 6

    詞と曲の革命児が出会った岩崎宏美という奇跡の突然変異種

  2. 7

    高市政権にも「政治とカネ」大噴出…林総務相と城内経済財政相が“文春砲”被弾でもう立ち往生

  3. 8

    「もう野球やめたる!」…俺は高卒1年目の森野将彦に“泣かされた”

  4. 9

    連立与党の維新が迫られる“踏み絵”…企業・団体献金「規制強化」公明・国民案に立憲も協力

  5. 10

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋